後編の181頁で,思わずしみじみ….

◇追記(2009年4月1日)
『お釈迦様もみてる 学院のおもちゃ』を読んで安来節の道具の場面を読み返したくなり
ネット検索して,引っぱり出して読んでみたら…本当に読んだというメモだけ…この頃.
そして,マリみての文体というか雰囲気もけっこう変遷したんだなという印象.

169頁の祐巳の行動とかモノローグとか…こんなだったけ?
8年経って忘却の彼方だった.











◇メモ
(前編)
P.164 「あれ? これ、何だろう」
    そう言いながらお母さんは、風呂敷包みをずるずると引きずって畳の上に出した。
    「押入れの中に入っている物で、お母さんが把握していない物もあるんだ?」
    「たまにね」
     お父さんか私か弟の祐麒か、誰かが邪魔だから勝手に隠しておいた物とか、
    お母さんがしまったのだけれどしまったこと自体忘れてしまうくらい影の薄い物
    だとか。
    「これは前者ね」
P.165  お母さんは、そう言って笑った。
    「犯人は案外祐巳ちゃんじゃないのー?」
    「記憶にございません。開けていい?」
    「いいわよ。見られて困る物なら、自分で管理しているでしょ」
     一理ある。押し入れは、一応我が家では家族の共同スペースである。
    「さて、何が出てきますか」
     私はワクワクと、結び目に指をかけた。しかし、まるで封印のように固い。この
    包みを縛った人は、もしかして絶対に開けられたくなくて、エジプトのピラミッド
    みたいに呪いをかけていたりして。
     中から裸の女の人の写真なんか出てきたら、見なかったことにしようと思った時、
    結び目がとけた。
     中から現れたものは――。
    「何、これ。カセットテープと手ぬぐいと、五円玉と……ざる?」
     私とお母さんは、顔を見合わせた。
P.168 「祐麒」
    「ん?」
    「これ、なーんだ?」
     弟の部屋を訪ねて私が指し示したのは、例の風呂敷包みだ。
    「……」
     無言ではあるが、目が泳いでいる。明らかに動揺していた。犯人みーっけ。
P.169 「これについて口を割るまで帰らない」
     相当に触れて欲しくない過去なのか。でも私は追及の手をゆるめない。
    ベッドまで追いかけて、弟の上にのしかかって風呂敷包みを突きつけた。
    「それは封印したんだから。勝手に引っぱり出すなよ」
    「じゃ、なんで押入れの中なんかに隠しておくの。目障りなら捨てるなり何なりして、
    処分すればいいじゃない」
    「捨てられるものなら捨ててるさ。でも、生憎俺のじゃないんだよ」
    「え?」
    「ちゃんと話すから退いて。もう、胸が当たってる」
     祐麒はムッとして言った。
     なるほど、それは申し訳ないことをした。いくら血を分けたお姉ちゃんだからって、
    若くてピチピチの女の子の接近は、高一の青少年にはちと毒かもしれない。
P.170 「ある人からの預かり物なんだよ」
     私が身体を離すと、祐麒は身を起こしてパジャマの襟を正した。
    「預かり物ねぇ」
    しかし、まあ何もなかったように話を続ける子である。せめて、顔を赤らめる
    くらいしてもよさそうなのに。私のことを嫌いなんじゃなかろうか。それとも
    誰かさんの影響で、女の子に対して興味がなくなってしまったとか。
    だとしたら、ゆゆしき問題だ。
    「だけど、俺の部屋には余分なスペースがないし、大掃除の時期だけクリアすれば
    あとは誰も見ないだろう」
    「で、預かったっていう『ある人』って誰?」
     嫌な予感。それって「誰かさん」だったりして。
    「柏木先輩」
    「ガビーン」
     もろ的中。当たりでも、これはあまり嬉しくない。
    「でも。柏木さん、もうじき卒業でしょ」
     返せば、と風呂敷包みを弟に向かって放る。
    「それができれば、押入れになんか隠すかよ」
     ドッジボールの要領で、祐麒は両手でキャッチした。
    「うん、そうね」
P.172 「寄付、という名の押しつけさ。代々哀れな一年生が保管し続けるはめになった」
    「ははーん」
     晴れてこのグッズから解放されるのは、次の哀れな新一年生が現れた時、
    というわけだ。
    「これ、貸してよ」
     私は祐麒の隣に腰を下ろして、風呂敷包みを指さした。
    「いいけど……まさか」
     目を丸くしてこちらを見る祐麒。
    「その、まさかです。このやり方教えて。お別れ会でやりたいの」
     私が答えると、「ばかなんじゃない?」と真顔で言った。
    「どうしてばかなの」
     私は祐麒に詰め寄った。祐麒の言うことって、大抵のことは納得できるんだけど、
    今回はちょっとわかりにくい。
    「自ら進んで笑い物になるわけ?」
    「違うわよ。笑いを取るの。」
    「……」
    「……」
     しばし沈黙した後、祐麒はフッと笑った。
    「姉ちゃんも、柏木みたいなことを言うんだ」
    「えー。あの人と一緒!?」
     ちょっと嫌だ。個人的恨みはないけれど、お姉さまの婚約者というだけで
    柏木さんには腹が立つのだ。
    「まあね。ちょっとシチュエーションが違うけど、似たようなこと言ったよ」
     祐麒は、「うん」とうなずいて風呂敷包みの封印を解いた。
    「いいでしょう。親愛なる姉に、ここは弟がご教授いたしましょう。
    アレンジ・バージョンだけどいい?」
    「ありがとうございます、師匠!」
     私は頭を下げた。ここは祐麒の気が変わらないうちに、弟子になるに限る。
     しかし。
    「一と二と三と四と」
     彼が結構、手厳しいお師匠さんだったということは、稽古を
    付けてもらい始めてから知ったのだった。
P.207  私の「まさか」は大抵実現する。テープから流れてきた音楽は、島根の
    名物『安来節』。しかも振りは男踊り。

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