8月1日の日記

2009年8月1日 読書
櫂末高彰『学校の階段 10』ファミ通文庫

素晴らしいっ!燃えて燃えて燃えまくった.
裏表紙の梗概といい幸宏の様子といい
怪しげな談合の様子といい…と暗雲を
立ち込めさせ…(でも,談合場面のすみに
邪悪じゃないと予感させる要素を置くあたり
人のいい著者らしかったりもするけど)

その先の,燃える展開はネタバレしない方が
楽しめるだろうから,好かったよ,素晴らしかったよ,と.

「その先」の扱いが,小憎らしいほど綺麗に決まってるかな.
本編最後の締め方と,この「その先」扱いは,なんだか
櫂末高彰らしからぬほどキザというか素敵に決まってる.

231頁~233頁のところ,アニメで観てみたい.
いや,前があって,ここが出てくるのでもいいけど
この部分だけでも,とても素敵な場面になりそう.
シリーズ読んできた人なら感涙ものじゃないかと.

◇メモ
P.56  小学生の頃、抱いていた空想やモヤモヤは、すっかり消え去ったと
    思っていた。どこか未知の世界へ。ここではないどこかへ。そんなことは
    もう考えなくなったのだと。

P.65 不意に、重いものが胸に落ちた。
    物理的なものではない。体に変調をきたしたわけでもない。
   それは精神的なもので、よくわからないものだった。
   「うぇっ……」
    吐き気を催し、刈谷は再び椅子に沈み込んだ。項垂れ、襲い掛かってきた
   重苦しい感覚を堪えようとする。悲しくて悲しくて仕方なくなってきた。何も
   悲しいことなんてないはずなのに、悲しさが胸から喉へとせり上がってくる。
   目に涙がたまりそうな予感があった。
   ……何だ? これ。
   意味がわからない。意味がわからない。まったく意味がわからない。
   突然訪れた不可解な感覚に翻弄され、それが治まるまで刈谷はじっと椅子に

P.66 座って堪えるしかなかった。
    それは訪れたときと違い、徐々に静まっていった。
    ゆっくりと、自分の中から抜け落ちていくように。緩やかに流れでていった。
    そして、ただ悲しさだけが、最後に残った。


P.66  なくしてしまった。
    何かをなくしてしまったんだ。何をなくしたのか、そもそもそれを持って
   いたのかすら定かでないのに、何かをなくしたという悲しみだけが胸の内に
   ある。その正体がわからないのに、喪失感が胸の中に残っている。


P.68 「……何か、見えたんだ」
   言葉が漏れる。さっき、何かが階段の先にちらついた。それを追いかけて
   駆け上がったのに、それはどこにもなかった。あれは何だったんだろう。
    階段を一段ずつ降りていく。悲しかった。わけもなく悲しかった。
   一階に降り立つなり、階段に座り込んでしまった。
   仰向けに倒れ込み、階段を見上げる。
   「!?」
   何かが、見えた。

P.69 瞬間、駆け上がっていた。それを追いかけて一段飛ばしで階段を上る。
   あっという間に四階へ着いた。周囲に目を凝らす。どこにも何もない。


P.69 もっと速く。もっと速く駆け上がるんだ。あれはそうしないと逃げてしまう。
   もっともっと速く駆け上がれば追いつくんだ。そうすれば、はっきり見える。
   そうすれば、治まるんだ。あの「先」に行けば、きっと。
    いつの間にか、悲しみは治まっていた。そして、その代わりに強烈な「衝動」が
   湧き起こっている。
    もっと速く。もっと速く駆け上がれ。そうしてあの「先」を見るんだ。あの「先」を
   見なきゃいけないんだ。あの「先」に行くんだっ。


P.77 「!?」
   三階へと体を捻った瞬間、階上に何かがちらついた。幸宏はハッとなって更に

P.78 大きく足を振り上げる。

P.78 まただ!
   階上で何かがちらついた。幸宏は急ぐ。四階に達した。壁に手をつき、折り返し
   ながら左右に目を走らせる。特に変わったものは見当たらなかった。


P.85 あれは、何なんだろう?
   今日も見た。見たような気がした。階段の先に何かがちらついた。でも
   駆け上がってみた先には何も見当たらなかった。このところ、頻繁にちらつく
   何か。あれが気になって仕方ない。


P.86 「目標じゃありません。そういう、何ていうか、前向きなものじゃないんです。
   何だかすごく焦ってしまう感じで……ああ、えっと、違うなあ」
   苛々してきた。どうしてこの感覚が上手く伝えられないんだろう。どうして
   上手い表現が見つからないんだろう。
   「だから、その、えっと……」
   その「先」を見たいんだ。
   瞬間、もっとも適切な言葉を見つけたと思った。幸宏は顔を上げる。心配そうな

P.87 仲間たちの顔が目に飛び込んできた。幸宏ははっきりと言う。
   「『先』ですよっ。まだ先があるんです。そんな感じナですっ。行かなきゃいけないし、
   見たいんですっ。そういう感覚ですっ」
   「…………」


P.87  刈谷先輩。もしかして、ずっとこんな思いをしていたんですか? たった
   一人きりで、誰にも理解されない思いを、抱えていたんですか?
    この感覚は、他の人に説明ができません。刈谷先輩は、だから一人きりで
   走っていたんですか? 今も、一人で走っているんですか?
    やっぱり、僕も独りにならないといけませんか?

P.88 ……今なら、刈谷先輩の気持がわかると思います。こんなものは、
   なくなってしまった方がいい。ずっと抱えて生きていくのは辛いと思います。
   誰とも共有できないのは辛いし、きついし、何より寂しいです。


P.195 初めは意味がわからなかった。急に色々言われて戸惑った。
    それから、じわじわと一つの可能性が浮かび上がってきた。今まで一度も
   考えなかった可能性だった。あまりにも自分に都合の良い考えかただった。
    でも、きっとそれこそが真実なのだと心の底から思えたとき、廊下の窓に
   サアッと光が差し込んだ。
    幸宏は立ち上がり、窓を開けた。顔を出し、空を見上げる。まだ冷たさを感じる
   空気は清々しく、空は一点の曇りもない蒼だった。
    快晴だ。
    日は傾いてきているけれど、空はどこまでも青い。


P.209 「それがあなたの強みじゃない。嫌いな相手のために、こんな大掛かりな
    騒ぎは誰も起こさないわよ。『階段部殲滅作戦』の案を各部に回したときね、
    一〇くらいが乗ってくれたら十分だと思っていたの。それなのに、回したところ
    全部が乗ってきたのよ。そのときは、うちも困った生徒が多いと思ったわ。
    だけど、集まって話を詰めていくと、みんな色々と考えていてね。そう、
    神庭君が言った通りよ。誰も本気で階段部を潰そうとか生徒会長を
    リコールしようなんて考えてなかったわ。ただ、今年度の締めに、三年生は、
    この学校での最後の記念に、階段部と、あなたと、遊びたかったの」


P.210 「ここであなたを投げ飛ばして気絶させることもできるのよっ」
    幸宏は微笑む。
    「それはできないよ」
    「できるわっ。私の腕前を甘く見てもらったら――」
    「できないよ。僕だって、少しは調べたんだ。敵意がない人間を投げ飛ばすのは、
    合気道の理念に反するだろ。初段を持ってる御神楽さんは、そんなことしないよ」


P.232 幸宏は、自分が笑っているのを感じた。心臓は激しく鼓動を打ち、全身が悲鳴を
   上げるほど肉体を酷使しているのに、楽しさを感じている。ようやく差が
   埋まった気がした。決定的な何かを手に入れた。分厚い空気の層を
   切り裂いて進む。もう少し、もう少しで何かが見える。その「先」には、
   きっと素晴らしいものがある。きっと全てを満たしてくれる。勝手にそう思った。
   そう思い込んだ。そうしないとやってられなかったのかもしれない。あのとき
   見かけたものは、本当はただの目の錯覚だったんじゃないか。見たと
   思いたかっただけなんじゃないか。あれから何度も自問した。自分の衝動を
   押さえ込もうともした。だけど、忘れられなかったんだ。あのとき見えたと

P.233 思ったものそれを追いかけていないと、よくわからないものに押し潰されて
   しまいそうだったんだ。だから走り出した。走り続けた。そうしているうちに、
   もっと速く、もっと速く走ればその「先」に行ける気がしてきたんだ。
    もっと楽しい世界があると、回し車を回しながら、檻の中からずっと
   見つめていたんだ。


P.266 「神庭幸宏。お前に俺から二つ名を送ろう。『茨の道』を進むお前に、敬意と
   激励を込めて――」
    刈谷が息を吸う。
   「受け継ぐもの、『後継者』。その名を捧げる」


P.273 そう、今思い返してみるととても馬鹿げたことだった。何であんなことに夢中に
P.274 なっていたのか、ちょっと恥ずかしい気さえする。でも、やっぱりどうしても忘れ
   られない。あの頃、馬鹿げていても真剣に追い求めたことは、きっと今、何かの
   形で活きているのだと思う。あの日々がなければ、今の自分はなかっただろう。

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