2月23日の日記

2010年2月23日 読書
明月千里『月見月理解の探偵殺人』GA文庫

冒頭のぶっ飛んだ様子で驚かされるが
読み進むと,予想の斜め上・斜め下に
突っ走っていくのがなかなか心地好い.

『みーまー』へのオマージュというような気分も感じたけれど
入間人間世界は大好きだけれども西尾維や森博嗣の世界は
趣味が違うなと感じる,わたしの妄想にすぎないかもしれない.

◇メモ
P.16 すると衣梨花は僕の手から教科書を奪い取り、ばばばばっ! と、まるで
   パラパラマ漫画でも読むかのような猛烈な勢いで、ページをめくり始める。
   「なっ……!」
    これは所謂、速読というものではなかろうか。ぱっと見た感じ、ただ適当に
   めくっているだけのようにも見えるけど、本当に読んでいるのか?銀行員が
   札束を数えるのとは、訳が違うはず――。
P.31 セイレムの魔女裁判
    セイラムの魔女裁判
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%A0%E9%AD%94%E5%A5%B3%E8%A3%81%E5%88%A4
   
P.32 《探偵殺人ゲーム》は、建前上推理ゲームと謳っているが、その本質は推理ではない。
P.33 つまり、自分が殺人鬼なら他のプレーヤを犯人だと、そうでないなら、自分の推理を
   納得させる話術こそが重要になってくる。例え嘘や誇張でも、構わないのだ。
    そうして自分以外の犯人像を作り上げ、他者を出し抜き、最後まで生き残ることが
   通常のゲームの目的となる。
P.37 ランダム要素があるかどうか  (ゲームの二分法のひとつとして)
P.53 スレイプニール号改  …古ノルド語: Sleipnir 北欧神話に登場する8本脚の馬
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%8B%E3%83%AB
P.63 「ごはんと味噌汁。アスパラとベーコンのソテーと、ツナと大根の煮物、ひじきだよ」
P.89  今まで寝ていたとおぼしき理解が、突然声を発して答えたことも
    さることながら、顔を突っ伏していた机には、黒板はもちろん、
    教科書もノートも見えていないのだから。
P.184  冷蔵庫で液化した賞味期限切れの野菜を発見したような目を向けてきた。
P.200 《無数に扉のある高座 フリズスキャルヴ》
    | フリズスキャールヴ 古ノルド語: Hliðskjálf 英語ではHlidskjalf
    | 北欧神話に登場する、全世界を視界にとらえることができる高座で、
    | 主神オーディンのものである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%B4
P.239 「見れば分かるさ、れーくん。俺様は五感で相手の心理状態をつかむことが
    できるのさ。それが、俺様の特殊能力だ」
     理解はついに、そう言い切った。
    「対象が発する音、匂い、所作、体液、脈。それらを思考ではなく、感覚そのもので
    読むのさ。話し方で嘘だと分かったりもする。直接見なくても、匂いだけで
    相手が怒っているか、喜んでいるかも分かる。それを突き詰めれば、
    例え機械越しにだって、相手の心理状態を把握できる」
    「…………」
    「この能力は全身の感度に比例する。読みにくい相手や、
    情報が限られた状況、あるいは重大な質問をする要所では、限界まで
    集中してアンテナを伸ばす故に、短時間での連続使用はできないが……。
    日常会話レベルじゃ、使うまでもなく筒抜けだ」
P.240 「ベースとして植え付けられた記憶能力と認識能力。
    それを元に、全てが見通せる 魔力という意味で、
    連中には《無数に扉のある高座 フリズスキャルヴ》と名付けられている。
    ま、名前負けしてる能力だけどな」
P.241「君は君自身を、疑っているんじゃないかということだ。君自身も、君の本心が
    分かっていない。信じていない。だから、つかめない」
P.243 「親父は本当にゲスな野郎だった。でも、俺様は好きだった。例え、
    それがストックホルム症候群のような錯覚で、真実ではなくともな」
P.253 男子トイレの中に達也を召還すると  …召喚
P.262  正直者はバカを見ると言われながら、何故幼い時分の正直というのは
   美徳だと言われたのか、今は分かる。
    それは、ヘタな嘘をつかれると面倒な大人が、とりあえずありのまま喋らせておこう
   ということなのだ。正直者であれ、というのは、ただそれだけの理由に過ぎない。
    善意の匙加減の分からない利口より、正直なバカである方が、
   大人たちにとっては都合がいいからだ。
    しかし、ある程度歳をとると、今度は自分を守るための嘘と、そして自分の
   利益を得るための嘘をついてゆかねばならないことに気づく。それは
   悪いことではなくて、生きてゆくための必然であり、努力だ。
    食事をすることが悪であってはならないのと同じように、嘘をつくことも、また然りだ。
    だが、いい人は確かに存在するが、この世界には悪人も存在することは
   純然たる事実だ。
    いや、それも少々語弊がある。世界は、まるで湖のように、澱みが濃いところと
   薄いところが混じり合っているが、中には綺麗な水でしか生きられない淡水魚の
   ように、この世界がまるで合わない人間も存在するのだ。
    生きているのが、苦痛な人間も存在するのだ。
P.263 命は尊いとか、自殺は絶対にいけないこと。そんなことはよく言われることだけど。
    じゃあ、そういう人は、死にたい人の面倒を見てくれるのだろうか?生活できる
    お金と心をくれるのだろうか?
     そう間の抜けた見当違いのことを口にすると、お金で雇われた人以外は、
    決まって二つの答えを返す。
    『甘ったれるな』と、『負け犬め』だ。僕は、酷くその通りだと思う。
    恐竜は死んで、ネズミは何故生き残った?生物は戦い、適応して
    生きていかねばならないのだ。
    「人の命はなあ! 地球より重いんだ! 簡単に誰かの命を奪ったり、
    自分から捨てたりするなんてことはだなあ! 絶対にしてははらない!」
     中学の頃、同じ中学生による自殺が多かった時期のある日。五時間目の
    数学の授業が潰れて、全校集会で体育館に集められた。夏場だったので、
    体育館の中はうだるように蒸し暑かった。まるでサウナだった。そこで、
    学年主任の――接点が薄かったので、名前までは思い出せないが、四十後半の
    角ばった顔つきの、少し髪の厚みと色が薄くなり始めた男の先生は、
    ステージの上でそう熱弁をふるっていた。
     『人の命は、地球より重い』
     僕はこのとき、耳を疑って、直後に噴き出してしまった。

%以下はあとがき部分
P.298  真実ってなんだろう。

     本作『月見月理解の探偵殺人』を書こうと思ったきっかけのひとつは、おそらく
    ふと生まれた、そんな考えじゃないかと予想されます。真実は『本当のこと』で
    間違いないとは思いますが、実際のところどうなんでしょう。本当のことって、
    誰かわかるんでしょうか?

     少し昔の話になります。私がまだ埼玉の大学に通っていた頃、同じゼミの
    メンバーにバンドが趣味の学生がいました。別に私と彼は親しい間柄でも
    何でもなく、あくまで『同じゼミのメンバー』以上の関係ではなかったのですが、
    それでも深く印象に残っていることがあります。彼は極度の偏食家で、
    野菜嫌いだったのです。
     私は生まれてから現在に至るまで、野菜を食べなさい、と色んな人に言われて
    きましたし、私自身も、『野菜を食べなければ死ぬな』という考えが完全に
    染みついています。まあ要するに、野菜の摂取が生きることに必要不可欠
    というのは、私の『真実』でした。これは今も変わっていません。
P.299  しかしその同じゼミの彼は、異常な男でした。トンカツについているキャベツは
    当然として、シューマイのグリーンピース、ラーメンのもやし、アスパラガスの
    肉巻きの中身など、食事の際にありとあらゆる野菜を排除していました。
    カップ焼きそばのかやくとしてついてきた野菜の断片すら執拗に取り除くその姿に、
    私はもはや、『彼は野菜を食ったら死ぬのではないか?』という非現実的な
    妄想すら抱きました。さりげなく機会をうかがって「アレルギーなの?」と聞くと、
    「嫌いなだけ」という答えが朗らかな苦笑と共に返ってきました。
     そこで更に詳しく聞くと、なんと彼は物心ついたときからあらゆる野菜を避け続けて
    生きているようで、それでも今まで重病にかかったこともなければ、そのせいで
    体調が長期間悪くなったこともない、というのです。言われてみると、彼は非常に
    社交的でバイタリティのある男で、当時卒業研究の傍ら、深夜まで執筆活動をして
    衰弱しきっていた私より遥かに健康な肉体と精神をしていましたし、別に肌荒れも
    していなければ、歯茎の色も普通でした。
     そんな訳で私は、不自然だな、と思っていたのですが、大学四年生ともなる彼が
    今更『野菜嫌い』なんてポーズをとっているとは思えませんし、むしろ本気で野菜を
    嫌がっているように見えました。まあ、生きるために必要不可欠な野菜を絶対に
    食べないというのは、ある意味、反抗ロックな生き様ではないかと解釈も
    しましたが、残念ながら彼がバンドでやっていたのはジャズでした。
    もう訳が分かりません。
     とまあ、ここまで考えて私は発想を変えました。もしかして、人は野菜を
P.300 食べなくても何ともないんじゃないか、と。両親や教師たち、他の人や情報媒体から
    聞いた話は、全部ただの風評に過ぎなかったのではないか、と。
     しかし、我が身を振り返ってみると、野菜を摂らない日々kが続いたときは、体調が
    悪くなっていたような気もします。あるいは野菜を摂らずとも治る体調不良に陥って
    いただけで、そのときに無理矢理野菜を食わされたせいで錯覚して
    いたのでしょうか?そう考えると、なんだか自信がなくなってきますが、やはり
    野菜を食べないと不健康になるんだ、と思いました。
     となると、今度は彼が嘘をついている可能性です。ですが、彼は野菜嫌いを
    演出してなんのメリットがあるんでしょうか?可愛い女の子の気を引いて、
    「もう、野菜もちゃんと食べなきゃダメだよ~。わたしがお弁当作ってあげよっか?」
    とか言われるのを期待していたんでしょうか。しかし当時のゼミ生たちは私を含め、
    可愛い女の子どころか可愛い男の子すらいない、むさ苦しい有様だったので、
    それはなさそうです。
     結局のところ、彼によって生み出された私の野菜に関する疑惑は、今の今まで
    晴れることがありません。私も昔は野菜嫌いでしたが、最近は年を取るごとに
    むしろ野菜が好きになってきているので、今更本当にどうでもいい
    問題ではありますが、そんなことですら、私は『真実』を知らなかったりするのです。

     この『月見月理解の探偵殺人』は、そういった猜疑心が主軸になっている
P.301 物語です。真実を知ることができない故に考え、一応の答えを出し、
    それを押し通すために戦う、とか。
     ちなみに、本作に登場する『探偵殺人ゲーム』ですが、そのモチーフになった
    ゲームが、実際に存在しています。一度でもそのネットゲームをプレイした方なら
    一発で気づくと思われますが、知る人ぞ知る『あれ』です。
     心当たりのない方は、それらしい単語で調べるとすぐ辿り着けると思われるので
    興味が沸きましたら是非プレイしてみてください。なお、その際はサーバーごとの
    ルールを熟読し、理解のような暴言は絶対に慎んでください。追放されます。
    慣れれば、とても楽しいゲームです。

    …思いつく検索語では辿り着けず,絡め手から拾ってしまった.
人狼 『汝は人狼なりや?』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9D%E3%81%AF%E4%BA%BA%E7%8B%BC%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%82%84%3F

受賞者インタビュー
第十七回 12月15日発売「月見月理解の探偵殺人」
著者:明月千里さん インタビュー
http://ga.sbcr.jp/novel/newface/interview17.html

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