森田季節『ともだち同盟』角川書店
「今、死にたいですね」
いや~,久しぶりに魂もってかれた~.
最初に一気に,千里を魅力的に描く手腕が凄い.
97頁で吃驚,そのときになって,読んでる自分が
千里にとても惹きつけられていることに気づいた.
このときの千里のイメージは清澄で美しいもの.
そして,中間部で,なんか濁った感じになりかけて
最後では,千里はとても強く儚く美しく魅力的に.
『女の子になりたいけれど,女にはなりたくない.』という言い方で
朧に描く夢想にかなり近い気がする.弥刀の物言いと対蹠的だが.
しかし,初めて南海高野線に乗ったのが10日,これの舞台は11日に見た.
そして,これ読み始めたのが18日.『時』ってもんかなぁ…….
◇メモ
P.15 「心配は無用です。はたから見たら、女の子同士に映るでしょうから」
「それはそれで嫌なんだよ」
また、こうやってからかわれるのだ。弥刀はいつまで経っても男っぽくならない。
声も顔も中性的で、髪の毛はすぐに伸びて肩にかかりそうになる。その肩は
ひどいなで肩で、しかも何か背負うとすぐに猫背になる。まるで自分の遺伝子が、
男になることを拒否しているようだ。
P.20 「それがミソなんです」と千里がよくぞ気づいてくれたとばかりに言う。「鈴って
玉が入ってないと鳴らないですよね。それは祈願の鈴と言って、ほんとに真剣な
願いの時だけ、カランコロン音が鳴るのです。真剣な時は魂、つまりタマが
鈴の中に入るのです。それが音を鳴らすわけです。いい話でしょう?」
「いい話っていうより、ホラーだよ、それ」
「大丈夫ですよ、ちゃんとした神社で買ったやつですし。
それにわたしも呪いこめましたし」
「呪いこめないでよ、余計だよ」
P.20 「ちなみにどんな呪い?」
「大神君がいつまでもわたしから離れられなくなる呪い」
そんな言葉が告白にならない自分たちはやっぱりおかしいのかなと
弥刀は感じた。でも、恋人になんてなったら、こんなふうに幸せに
手をつなぐことはできないのだ。
P.40 それに今は話を続けるより先にトイレに行きたい。食べる前に済ますのが
弥刀の習慣だ。
P.93 「今、死にたいですね」
千里の決まり文句は声に張りがなかった。
P.94 「あの、なんでわたしがここに来たと思いますか?」
P.94 「おかしいですね。出てきません。あれ、そんなはずは」
少しだけ焦ったような声を出してから三分ほど経って、千里は笑みを
取り戻した。そして
「なんだ、そういうことだったんですか」
P.104 「そんなのわかってるよ。でもね、弥刀にはこういう場所は危険なの。
なんていうのかな、頂上がとがってる山があるとするでしょ、普通の人は
頂上近くで満足して引き返すの。でもね、弥刀はその一番上に立とうと
しちゃうの。そういう人は、突然ありえない世界に行っちゃうことがあるの。
前触れなんて何もないの。ぱっと手が伸びてきて引っ張られていっちゃうの」
P.113 時折、千里に連れていかれた駅での光景が頭によみがえる。
関西本線の大河原駅、山陰本線の保津峡駅、姫新線の上月駅。なんで
そんなところに行くのかわけのわからない場所にばかり千里は行きたがった。
P.152 「弥刀、能天気すぎるよ」
P.156 昨日、能天気すぎると朝日に怒られたことが古傷みたいにじくじく痛む。
P.186 「すぐに人を誉める人って、自分では何もやらない人に多い気がするのよ。
その代わりにいろんなものをすごいと言って誉めて
やり過ごそうとしてるっていうか。私は誰々のファンですとか言って、
すっごく偉そうにしてる子がいるんだけど、そういう空気を感じるのよね。
なんでファンのあなたまで偉そうな顔をしてるのよって思う」
P.186 「そういう子って、すぐに自分の好きなものを薦めたがるのよ。
自分が面白いと思ったものはきっとお前にも面白いものだと
信じきってるわけ。ちょっとでも意に沿わないことをいうとすごく怒るの。
そのくせ、それがどのように素晴らしいのか説明することができないの。
ものすごく手前でよかったことにしちゃってるから本格的にそれが
どう素晴らしいのか考えたことがないのよ。だから、『すごい』を連発して
逃げるの。こんなすごいものがわからないのはおかしいって」
P.202 性が変わってしまう漫画はいくつか読んだことがあるが、
あれはすべてウソだ。あんなに平然と事態を受け入れられるはずがない。
…子供時分,鼠径ヘルニアの手術を受けて麻酔から醒めたとき
傷口に張られたガーゼの加減か隠れた感じになってて
あれ?なくなっちゃったのかな??と思ってすぐあとに,あったか,と.
不思議なのは,なくなって困ったとも,なくなったんじゃなくて残念とも
どちらも感じなかったということだった.
だからかな,平然と受け入れてるのに違和感を覚えたことないなあ.
P.219 「これでよかったのかな」
「いいわけがありませんよ」突き放すように千里が言った。「大神君は
あちらには二度と戻れません。恋人だったはずの朝日まで捨ててしまいました。
こんな結末がいいわけがありません」
「でも、千里にはこっちのほうがよかったんだろ」
「はい。わたしは大神君を傷つけたかったのですから。鈴にこめた呪い、
覚えていますか。大神君がわたしから離れられなくなる呪いです」
二人は狭いホームに縦になって手をつないでいた。もうすぐ夜が来る。
そうしたらつないだ手のあたたかさなんかでは太刀打ちできないだろうけれど、
ふるえながらでもその弱い熱を感じられるなら、弥刀はそれでいいと思った。
P.221 「でも、もう元の世界には戻れませんよ。ここにはわたししかいませんよ」
「選んだのは自分だから責任はとるよ。ところでどうして僕を女にしたの?」
「二人とも女の子だったら、体目当てだったなんてこと言えないじゃないですか。
わたしは恋愛するつもりなんてなかったんです。ただ、大神君がほしかったんです」
「弥刀って呼んでよ」
「弥刀」
「六文字から二文字に近づいた。『おおがみくん』から『みと』に」
「じゃあ、名前呼ばずに抱き合い続けてるほうがいいのですか?」
「そう思ってないから女にしたくせに」
「ですね。わたしは意味を作りたくなかったんです。男と女じゃ、わたしたちは
どうせいつか劣化して恋をしてしまいます。そしたら大神君と手をつないで
日なたぼっこする幸せもわからなくなってしまう。それを思い出にして老けていく。
いい大学に入っていい会社に勤めること。たくさんお金を稼ぐこと。スポーツや
芸術の腕を磨くこと。幸せな家庭を築くこと。すごく快感なセックスをすること。
みんな有意義なことです。だからそういう薄皮を全部はがして弥刀だけを
とらえようとしたらこんな方法しかなかったんです」
「今、死にたいですね」
いや~,久しぶりに魂もってかれた~.
最初に一気に,千里を魅力的に描く手腕が凄い.
97頁で吃驚,そのときになって,読んでる自分が
千里にとても惹きつけられていることに気づいた.
このときの千里のイメージは清澄で美しいもの.
そして,中間部で,なんか濁った感じになりかけて
最後では,千里はとても強く儚く美しく魅力的に.
『女の子になりたいけれど,女にはなりたくない.』という言い方で
朧に描く夢想にかなり近い気がする.弥刀の物言いと対蹠的だが.
しかし,初めて南海高野線に乗ったのが10日,これの舞台は11日に見た.
そして,これ読み始めたのが18日.『時』ってもんかなぁ…….
◇メモ
P.15 「心配は無用です。はたから見たら、女の子同士に映るでしょうから」
「それはそれで嫌なんだよ」
また、こうやってからかわれるのだ。弥刀はいつまで経っても男っぽくならない。
声も顔も中性的で、髪の毛はすぐに伸びて肩にかかりそうになる。その肩は
ひどいなで肩で、しかも何か背負うとすぐに猫背になる。まるで自分の遺伝子が、
男になることを拒否しているようだ。
P.20 「それがミソなんです」と千里がよくぞ気づいてくれたとばかりに言う。「鈴って
玉が入ってないと鳴らないですよね。それは祈願の鈴と言って、ほんとに真剣な
願いの時だけ、カランコロン音が鳴るのです。真剣な時は魂、つまりタマが
鈴の中に入るのです。それが音を鳴らすわけです。いい話でしょう?」
「いい話っていうより、ホラーだよ、それ」
「大丈夫ですよ、ちゃんとした神社で買ったやつですし。
それにわたしも呪いこめましたし」
「呪いこめないでよ、余計だよ」
P.20 「ちなみにどんな呪い?」
「大神君がいつまでもわたしから離れられなくなる呪い」
そんな言葉が告白にならない自分たちはやっぱりおかしいのかなと
弥刀は感じた。でも、恋人になんてなったら、こんなふうに幸せに
手をつなぐことはできないのだ。
P.40 それに今は話を続けるより先にトイレに行きたい。食べる前に済ますのが
弥刀の習慣だ。
P.93 「今、死にたいですね」
千里の決まり文句は声に張りがなかった。
P.94 「あの、なんでわたしがここに来たと思いますか?」
P.94 「おかしいですね。出てきません。あれ、そんなはずは」
少しだけ焦ったような声を出してから三分ほど経って、千里は笑みを
取り戻した。そして
「なんだ、そういうことだったんですか」
P.104 「そんなのわかってるよ。でもね、弥刀にはこういう場所は危険なの。
なんていうのかな、頂上がとがってる山があるとするでしょ、普通の人は
頂上近くで満足して引き返すの。でもね、弥刀はその一番上に立とうと
しちゃうの。そういう人は、突然ありえない世界に行っちゃうことがあるの。
前触れなんて何もないの。ぱっと手が伸びてきて引っ張られていっちゃうの」
P.113 時折、千里に連れていかれた駅での光景が頭によみがえる。
関西本線の大河原駅、山陰本線の保津峡駅、姫新線の上月駅。なんで
そんなところに行くのかわけのわからない場所にばかり千里は行きたがった。
P.152 「弥刀、能天気すぎるよ」
P.156 昨日、能天気すぎると朝日に怒られたことが古傷みたいにじくじく痛む。
P.186 「すぐに人を誉める人って、自分では何もやらない人に多い気がするのよ。
その代わりにいろんなものをすごいと言って誉めて
やり過ごそうとしてるっていうか。私は誰々のファンですとか言って、
すっごく偉そうにしてる子がいるんだけど、そういう空気を感じるのよね。
なんでファンのあなたまで偉そうな顔をしてるのよって思う」
P.186 「そういう子って、すぐに自分の好きなものを薦めたがるのよ。
自分が面白いと思ったものはきっとお前にも面白いものだと
信じきってるわけ。ちょっとでも意に沿わないことをいうとすごく怒るの。
そのくせ、それがどのように素晴らしいのか説明することができないの。
ものすごく手前でよかったことにしちゃってるから本格的にそれが
どう素晴らしいのか考えたことがないのよ。だから、『すごい』を連発して
逃げるの。こんなすごいものがわからないのはおかしいって」
P.202 性が変わってしまう漫画はいくつか読んだことがあるが、
あれはすべてウソだ。あんなに平然と事態を受け入れられるはずがない。
…子供時分,鼠径ヘルニアの手術を受けて麻酔から醒めたとき
傷口に張られたガーゼの加減か隠れた感じになってて
あれ?なくなっちゃったのかな??と思ってすぐあとに,あったか,と.
不思議なのは,なくなって困ったとも,なくなったんじゃなくて残念とも
どちらも感じなかったということだった.
だからかな,平然と受け入れてるのに違和感を覚えたことないなあ.
P.219 「これでよかったのかな」
「いいわけがありませんよ」突き放すように千里が言った。「大神君は
あちらには二度と戻れません。恋人だったはずの朝日まで捨ててしまいました。
こんな結末がいいわけがありません」
「でも、千里にはこっちのほうがよかったんだろ」
「はい。わたしは大神君を傷つけたかったのですから。鈴にこめた呪い、
覚えていますか。大神君がわたしから離れられなくなる呪いです」
二人は狭いホームに縦になって手をつないでいた。もうすぐ夜が来る。
そうしたらつないだ手のあたたかさなんかでは太刀打ちできないだろうけれど、
ふるえながらでもその弱い熱を感じられるなら、弥刀はそれでいいと思った。
P.221 「でも、もう元の世界には戻れませんよ。ここにはわたししかいませんよ」
「選んだのは自分だから責任はとるよ。ところでどうして僕を女にしたの?」
「二人とも女の子だったら、体目当てだったなんてこと言えないじゃないですか。
わたしは恋愛するつもりなんてなかったんです。ただ、大神君がほしかったんです」
「弥刀って呼んでよ」
「弥刀」
「六文字から二文字に近づいた。『おおがみくん』から『みと』に」
「じゃあ、名前呼ばずに抱き合い続けてるほうがいいのですか?」
「そう思ってないから女にしたくせに」
「ですね。わたしは意味を作りたくなかったんです。男と女じゃ、わたしたちは
どうせいつか劣化して恋をしてしまいます。そしたら大神君と手をつないで
日なたぼっこする幸せもわからなくなってしまう。それを思い出にして老けていく。
いい大学に入っていい会社に勤めること。たくさんお金を稼ぐこと。スポーツや
芸術の腕を磨くこと。幸せな家庭を築くこと。すごく快感なセックスをすること。
みんな有意義なことです。だからそういう薄皮を全部はがして弥刀だけを
とらえようとしたらこんな方法しかなかったんです」
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