入間人間『明日も彼女は恋をする』メディアワークス文庫
……じんわりとした感動の波に揺れている.
イラストが左さんだから,『みーまー』系の
素敵な素敵な物語だといいなと期待して
期待よりも素晴らしいって,なんて幸せ.
何となく,込入ってる構造だなと思って
なるべく無理に繋げないで,頭の中に
断片を散らばらせて読んでみたけれど
不完全な気がするので,再読したとき
景色がどう変わるか,とても楽しみ.
◇メモ
P.18 マチじゃない。座っている女の子は、まったくの別人だった。
派手に振り向かれたのが不満なのか、女の子の顔つきが不快そうに歪む。
マチではないけれど知っている顔だった。小学校の同級生だった、裏袋だ。
でも僕が知る限り、裏袋は車いすに頼った生活をしていなかった。車いすは
島にただ一人、マチだけだ。
P.28 僕を孫だと認識している祖母と、こうしてまた話せるなんて。
P.33 「祖母ちゃん、行ってきます」
それに小さく笑って、手を振る祖母の姿を、ずっと眺めていたかった。
P.35 「いつもこうしてお墓参りに来てくださる人がいるの」
「……いつも?」
そんなにニアと親しい人が、この島にいたのだろうか。自分以外に思い当たらず、
それがどうしてか潮風の匂いのように胸を刺激する。ニアとの思い出には
いつだって島の香り、海風の香りがつきものだったから。
ニアの母親が弱く頷き、そして花束に向けて言った。
「あなたも知っているでしょう。ヤガミさんよ。ヤガミカズヒコさん」
P.40 「なにこれ」
「しるこサンド」
「うん、そう書いてあるね。で、なにこれ」
「地元の銘菓だ。この間、大量に送られてきてな。人間、飯食えばなんとかなる」
あと,P.68, P.69, P.71, P.73, P.101, にしるこサンド.(%検索終わっていない)
P.40 『クリムゾンの迷宮』
P.41 「124387211」
P.42 そう。この番号、正確には124308072101なんだがな、口頭だし過去の俺が
相手だから0を省いたんだろう。人に聞かれてもどこで区切れば分からん
からというスパイ対策の理由も兼ねていたかもしれん。
P.43 「恐らくだが、お前一人だと完璧に過去に跳ぶことができない」
「どうして?」
「正確な日付に飛ぶことが難しいだろうな。さっき説明したことと関連あるが、
お前に今回の過去を体験した記憶がないからだ。気軽にリトライが
できない以上、正確さは大事だと思わんか」
P.44 ジョッキとスパナを枕に …ジャッキだろうな.
P.45 「本当に鯨が好きで仕方ないなら、命は平等じゃない。牛肉食って鯨は食うな、
という主張も的外れじゃない。大事にしたいものを、大事にする。それだけのことだ」
P.48 祖母ちゃんとの別れをもっと、しっかり済ませておくべきだった。
この世界への未練は、それぐらいだ。
P.48 決意は胸に一つ。
どんな時も、彼女のために。
P.77 「あ、玻璃先生だ」
P.77 「先生は、ニアのこと覚えてる?」 ※
覚えてるもなにも、しょっちゅう顔を合わせてるだろ。
そんな返事を期待していたのに、先生の目は細められて、声と共に顔も俯く。
「覚えてるさ。俺が受け持って卒業しなかった生徒は、あいつぐらいだからな」
P.81 「帰りもトランクで……いや、帰る、か」
P.81 僕がなんのためにここにやってきたのかということを一番において、何度も、
独りで協議する。二つある答えのうち、片方が満場一致で賛同されるのに
時間はかからなかった。
P.86 「いやぁ帰りの船に乗り遅れちゃって、この際永住しようかなと」
P.95 鳥瞰してみれば この鳥瞰に「ちょうず」のルビはなかろう.「ちょうかん」
P.99 好きですぐらいさっさと言えよ。なんて、どの口が言えたものか。
P.111なんで、あのレースが行われる?
あれは八年前、事故が起きたことで中止となったはずなのに。
P.112 人の寄りつかない墓になんの価値があるのだろうか。墓石は死者ではなく、
生きる者のために必要なのに。
…これ,『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 7 死後の影響は生前』
のP.205のあたりの描写思い出したり……入間人間らしさの一つかな.
http://felis.diarynote.jp/200904091305424662/
P.119 あのレースに参加したことで、わたしの運命がその足を失った瞬間を。
P.124 「林田近雄。チカちゃんとかかわいく呼ばんよーに」
「……ちかお?」
その名前を聞いた瞬間、僕は目の前にいる少年が『誰か』を、思い出した。
P.125 林田近雄は林田ちかおだった。僕たちが小学校でその漢字を習う前に、
海で溺れて死んでしまったのだ。後にも先にも、同級生が死んだのは
それっきりだった。 ※
P.146 「いっつもあそこにいるだろー。あそこ、わたしのぺすとぷれいすって
言ったじゃん」
P.178 こいつがヤガミカズヒコ?
まったく見覚えのない男は、階段の最後で立ち止まる。
P.179 「ごめんみぃちゃん。でも、ありがとう」 →P.247
P.188 「お前がマチを救う。そして未来がまた変わる、か。お前、見た目と裏腹に
凄いことやってるんだぞ。自覚あるか?」
「あるよ。責任は、取らないけどね」
時間旅行なんてどうあがいても、世界にとっては悪徳でしかない。
「これが終わったら、もうこっちに帰ってくるなよ。Part3はいらんぞ」
「……ん、ああ」
曖昧に答えつつ、空を見上げる。
この空が晴れるどのときまで、マチを守り続ける。してみせるんだ。
P.188 その男は、わたし(裏袋美住)より八つか九つほど年上に見えた。
P.190 「自分の足で歩ける気分はどうかな、裏袋美住(「みか」のルビ」)」
P.209 ……近雄、か。
「ニア」
いやにすんなり、その言葉が『馴染んだ』。
P.223 そうしていると島の西側から、同級生の玻璃綾乃と女が一緒の自転車に
乗ってやってきた。あいつらも参加するのだろうか。しかも二人乗り?
冷やかしなら帰れと言いたくなる。
P.225 「ああ、きみが自転車に乗れるならもういいかなと。よし、きみの勝ち」
P.229 「僕にまだ気づいてくれないのかい、裏袋」
男がなにかを示すように髪を弄る。……髪? 真っ黒な、癖毛の……あ。
あ!
目の中に強い光が差し込んで、真っ白になる。そして白い景色の中でも、
そいつの頭が動くことで、黒い癖毛の輪郭がうごめいて、白色を侵食していく。
「玻璃、綾乃?」
P.230 僕は今一度、自分の中にある答えを突き詰める。
P.242 「運命があると仮定するなら、こういう決まりなのかもな」
「そういうって?」
「マチが生き残れば近雄が死ぬ。近雄が生きれば、マチが死ぬ。
計算式の数字をいくら変えようとしても、出される答えは
同じ数字でなければいけないのかも知れない」
感情の熱を宿さないまま科学者として、松平さんが近雄の死の見解を述べる。
P.242 マチと近雄の天秤。片方を取れば、片方はなにかの手元に行ってしまう。
それなら僕は、マチを選ぶ。
P.243 すまんな、色々と。
過去から帰る際に松平貴弘がそう言った。
そしてそれにニアが答えたときのことも、覚えている。
ニアは最後まで笑顔だった。
『嬉しかったです。またヒーローに会えたから』
P.243 「僕はずっときみに憧れてたんだ、綾乃」
P.244 「あのとき、崖から飛んで颯爽と現れたヒーローにね。憧れるのも無理ないだろ」
P.245 「その二週間前に海で溺れたからね。あれを思い出して怖くなって、船には
乗らなかった。マチも操縦方法は知っていたからね。一人で乗っていったよ」
P.246 「僕が生きているとね、来年に美住が歩けなくなるんだ」
「美住って、裏袋か」
車いすに乗っていた姿を思い出す。
「うん。二人で自転車レースに参加してね、あいつが転ぶんだ。
僕の自転車が後ろから追突してしまったことが原因で……
でも、僕がいなければ、美住は事故に遭わない」
P.247 「怖いよ、勿論。死にたくもない……けど、不思議だなぁ。僕はなんとなく、
死ぬことを受け入れなければいけない気持ちでもあるんだ。この世界に
生き物の生き死にを司るなにかがいるなら、それが働きかけて
いるんだろうね。僕が死ねるように」
P.247 「僕はいずれ、未来へ帰った裏袋に会うと思う。そのときには裏袋も、近雄が
死んだことを知っているだろうけど……なにか、伝えたいことはあるか?」
言われて、近雄が腕を組む。目が宙を泳ぎ、やがてこう言った。
僕ではなく、ここにいない裏袋の姿を見るような目つきで。
「ごめんみぃちゃん。でも、ありがとう」
P.248 「美住が未来へ帰った後、多分あいつ、自転車に乗れないと思うんだ。事故の
記憶で躊躇うと思うから、それを治してあげて欲しい」
P.251 「この島に、この時代に残る。そしてマチを見守って生きるんだ」
それは再び過去に来た当初から決めていたことだった。
またいつ、どこでマチが危険な目に遭うか分からない。だけど、もう
タイムマシンに乗って戻ってくるのは、こりごりだ。近雄のようなやつを
増やしたくない。
「いいのか?昔のお前はどうか知らんが、おまえ自身はマチといちゃつけんぞ」
P.254 かつての同級生だったはずの男が、安堵のような表情を浮かべる。
かつての同級生はわたしより八つ、九つは年上となって、目の前に立っている。
その矛盾に、わたしはすぐ抜け道を見つけた。時間旅行という反則を。
そして相手が玻璃綾乃だとしたら。その目的さえも、おおよそ察する。
「あんた、過去に戻ってからそのまま、」
「そう。ずっとこの島にいたんだ」
玻璃綾乃がそれを認める。変わらない癖毛を指に絡めながら、遠くを見るように、
背後を向いた。その先にはわたしと同い年である玻璃綾乃と、そして女がいた。
P.255 「なんで、ニアも助けてくれなかったの?」
「近雄が納得したからだ」
「なんで!」
問いを重ねる。二度目は震えもなく鋭い悲鳴となった。
「近雄がいると、きみがいずれ歩けなくなる。だから彼は死ぬことを認めたんだ」
P.255 あいつがずっと悔やんでいたのを知っている。謝ったことも。
そしてあの嵐の夜、言ったことも。
『どうしてこの時代へ来たか、分かった気がする』と。
P.256 「わたしは足より、ニアが欲しかった!」
「……本当に?」
P.257 「あんたならマチと自分の足、どっちを選ぶ?」
「マチを選ぶだろうね、迷わず」
玻璃綾乃は一瞬の躊躇いもなく言い切る。
その姿勢は、わたしの決意を促すのに十分な切れ味を誇っていた。
わたしもあんたと同じ種類の人間だと、そこで理解する。
P.264 裏袋の横に老婆が付き添い、道を行く。
P.264 そして老婆の手にあった郵便物の包みと外見には、見覚えがあって。
……じんわりとした感動の波に揺れている.
イラストが左さんだから,『みーまー』系の
素敵な素敵な物語だといいなと期待して
期待よりも素晴らしいって,なんて幸せ.
何となく,込入ってる構造だなと思って
なるべく無理に繋げないで,頭の中に
断片を散らばらせて読んでみたけれど
不完全な気がするので,再読したとき
景色がどう変わるか,とても楽しみ.
◇メモ
P.18 マチじゃない。座っている女の子は、まったくの別人だった。
派手に振り向かれたのが不満なのか、女の子の顔つきが不快そうに歪む。
マチではないけれど知っている顔だった。小学校の同級生だった、裏袋だ。
でも僕が知る限り、裏袋は車いすに頼った生活をしていなかった。車いすは
島にただ一人、マチだけだ。
P.28 僕を孫だと認識している祖母と、こうしてまた話せるなんて。
P.33 「祖母ちゃん、行ってきます」
それに小さく笑って、手を振る祖母の姿を、ずっと眺めていたかった。
P.35 「いつもこうしてお墓参りに来てくださる人がいるの」
「……いつも?」
そんなにニアと親しい人が、この島にいたのだろうか。自分以外に思い当たらず、
それがどうしてか潮風の匂いのように胸を刺激する。ニアとの思い出には
いつだって島の香り、海風の香りがつきものだったから。
ニアの母親が弱く頷き、そして花束に向けて言った。
「あなたも知っているでしょう。ヤガミさんよ。ヤガミカズヒコさん」
P.40 「なにこれ」
「しるこサンド」
「うん、そう書いてあるね。で、なにこれ」
「地元の銘菓だ。この間、大量に送られてきてな。人間、飯食えばなんとかなる」
あと,P.68, P.69, P.71, P.73, P.101, にしるこサンド.(%検索終わっていない)
P.40 『クリムゾンの迷宮』
P.41 「124387211」
P.42 そう。この番号、正確には124308072101なんだがな、口頭だし過去の俺が
相手だから0を省いたんだろう。人に聞かれてもどこで区切れば分からん
からというスパイ対策の理由も兼ねていたかもしれん。
P.43 「恐らくだが、お前一人だと完璧に過去に跳ぶことができない」
「どうして?」
「正確な日付に飛ぶことが難しいだろうな。さっき説明したことと関連あるが、
お前に今回の過去を体験した記憶がないからだ。気軽にリトライが
できない以上、正確さは大事だと思わんか」
P.44 ジョッキとスパナを枕に …ジャッキだろうな.
P.45 「本当に鯨が好きで仕方ないなら、命は平等じゃない。牛肉食って鯨は食うな、
という主張も的外れじゃない。大事にしたいものを、大事にする。それだけのことだ」
P.48 祖母ちゃんとの別れをもっと、しっかり済ませておくべきだった。
この世界への未練は、それぐらいだ。
P.48 決意は胸に一つ。
どんな時も、彼女のために。
P.77 「あ、玻璃先生だ」
P.77 「先生は、ニアのこと覚えてる?」 ※
覚えてるもなにも、しょっちゅう顔を合わせてるだろ。
そんな返事を期待していたのに、先生の目は細められて、声と共に顔も俯く。
「覚えてるさ。俺が受け持って卒業しなかった生徒は、あいつぐらいだからな」
P.81 「帰りもトランクで……いや、帰る、か」
P.81 僕がなんのためにここにやってきたのかということを一番において、何度も、
独りで協議する。二つある答えのうち、片方が満場一致で賛同されるのに
時間はかからなかった。
P.86 「いやぁ帰りの船に乗り遅れちゃって、この際永住しようかなと」
P.95 鳥瞰してみれば この鳥瞰に「ちょうず」のルビはなかろう.「ちょうかん」
P.99 好きですぐらいさっさと言えよ。なんて、どの口が言えたものか。
P.111なんで、あのレースが行われる?
あれは八年前、事故が起きたことで中止となったはずなのに。
P.112 人の寄りつかない墓になんの価値があるのだろうか。墓石は死者ではなく、
生きる者のために必要なのに。
…これ,『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 7 死後の影響は生前』
のP.205のあたりの描写思い出したり……入間人間らしさの一つかな.
http://felis.diarynote.jp/200904091305424662/
P.119 あのレースに参加したことで、わたしの運命がその足を失った瞬間を。
P.124 「林田近雄。チカちゃんとかかわいく呼ばんよーに」
「……ちかお?」
その名前を聞いた瞬間、僕は目の前にいる少年が『誰か』を、思い出した。
P.125 林田近雄は林田ちかおだった。僕たちが小学校でその漢字を習う前に、
海で溺れて死んでしまったのだ。後にも先にも、同級生が死んだのは
それっきりだった。 ※
P.146 「いっつもあそこにいるだろー。あそこ、わたしのぺすとぷれいすって
言ったじゃん」
P.178 こいつがヤガミカズヒコ?
まったく見覚えのない男は、階段の最後で立ち止まる。
P.179 「ごめんみぃちゃん。でも、ありがとう」 →P.247
P.188 「お前がマチを救う。そして未来がまた変わる、か。お前、見た目と裏腹に
凄いことやってるんだぞ。自覚あるか?」
「あるよ。責任は、取らないけどね」
時間旅行なんてどうあがいても、世界にとっては悪徳でしかない。
「これが終わったら、もうこっちに帰ってくるなよ。Part3はいらんぞ」
「……ん、ああ」
曖昧に答えつつ、空を見上げる。
この空が晴れるどのときまで、マチを守り続ける。してみせるんだ。
P.188 その男は、わたし(裏袋美住)より八つか九つほど年上に見えた。
P.190 「自分の足で歩ける気分はどうかな、裏袋美住(「みか」のルビ」)」
P.209 ……近雄、か。
「ニア」
いやにすんなり、その言葉が『馴染んだ』。
P.223 そうしていると島の西側から、同級生の玻璃綾乃と女が一緒の自転車に
乗ってやってきた。あいつらも参加するのだろうか。しかも二人乗り?
冷やかしなら帰れと言いたくなる。
P.225 「ああ、きみが自転車に乗れるならもういいかなと。よし、きみの勝ち」
P.229 「僕にまだ気づいてくれないのかい、裏袋」
男がなにかを示すように髪を弄る。……髪? 真っ黒な、癖毛の……あ。
あ!
目の中に強い光が差し込んで、真っ白になる。そして白い景色の中でも、
そいつの頭が動くことで、黒い癖毛の輪郭がうごめいて、白色を侵食していく。
「玻璃、綾乃?」
P.230 僕は今一度、自分の中にある答えを突き詰める。
P.242 「運命があると仮定するなら、こういう決まりなのかもな」
「そういうって?」
「マチが生き残れば近雄が死ぬ。近雄が生きれば、マチが死ぬ。
計算式の数字をいくら変えようとしても、出される答えは
同じ数字でなければいけないのかも知れない」
感情の熱を宿さないまま科学者として、松平さんが近雄の死の見解を述べる。
P.242 マチと近雄の天秤。片方を取れば、片方はなにかの手元に行ってしまう。
それなら僕は、マチを選ぶ。
P.243 すまんな、色々と。
過去から帰る際に松平貴弘がそう言った。
そしてそれにニアが答えたときのことも、覚えている。
ニアは最後まで笑顔だった。
『嬉しかったです。またヒーローに会えたから』
P.243 「僕はずっときみに憧れてたんだ、綾乃」
P.244 「あのとき、崖から飛んで颯爽と現れたヒーローにね。憧れるのも無理ないだろ」
P.245 「その二週間前に海で溺れたからね。あれを思い出して怖くなって、船には
乗らなかった。マチも操縦方法は知っていたからね。一人で乗っていったよ」
P.246 「僕が生きているとね、来年に美住が歩けなくなるんだ」
「美住って、裏袋か」
車いすに乗っていた姿を思い出す。
「うん。二人で自転車レースに参加してね、あいつが転ぶんだ。
僕の自転車が後ろから追突してしまったことが原因で……
でも、僕がいなければ、美住は事故に遭わない」
P.247 「怖いよ、勿論。死にたくもない……けど、不思議だなぁ。僕はなんとなく、
死ぬことを受け入れなければいけない気持ちでもあるんだ。この世界に
生き物の生き死にを司るなにかがいるなら、それが働きかけて
いるんだろうね。僕が死ねるように」
P.247 「僕はいずれ、未来へ帰った裏袋に会うと思う。そのときには裏袋も、近雄が
死んだことを知っているだろうけど……なにか、伝えたいことはあるか?」
言われて、近雄が腕を組む。目が宙を泳ぎ、やがてこう言った。
僕ではなく、ここにいない裏袋の姿を見るような目つきで。
「ごめんみぃちゃん。でも、ありがとう」
P.248 「美住が未来へ帰った後、多分あいつ、自転車に乗れないと思うんだ。事故の
記憶で躊躇うと思うから、それを治してあげて欲しい」
P.251 「この島に、この時代に残る。そしてマチを見守って生きるんだ」
それは再び過去に来た当初から決めていたことだった。
またいつ、どこでマチが危険な目に遭うか分からない。だけど、もう
タイムマシンに乗って戻ってくるのは、こりごりだ。近雄のようなやつを
増やしたくない。
「いいのか?昔のお前はどうか知らんが、おまえ自身はマチといちゃつけんぞ」
P.254 かつての同級生だったはずの男が、安堵のような表情を浮かべる。
かつての同級生はわたしより八つ、九つは年上となって、目の前に立っている。
その矛盾に、わたしはすぐ抜け道を見つけた。時間旅行という反則を。
そして相手が玻璃綾乃だとしたら。その目的さえも、おおよそ察する。
「あんた、過去に戻ってからそのまま、」
「そう。ずっとこの島にいたんだ」
玻璃綾乃がそれを認める。変わらない癖毛を指に絡めながら、遠くを見るように、
背後を向いた。その先にはわたしと同い年である玻璃綾乃と、そして女がいた。
P.255 「なんで、ニアも助けてくれなかったの?」
「近雄が納得したからだ」
「なんで!」
問いを重ねる。二度目は震えもなく鋭い悲鳴となった。
「近雄がいると、きみがいずれ歩けなくなる。だから彼は死ぬことを認めたんだ」
P.255 あいつがずっと悔やんでいたのを知っている。謝ったことも。
そしてあの嵐の夜、言ったことも。
『どうしてこの時代へ来たか、分かった気がする』と。
P.256 「わたしは足より、ニアが欲しかった!」
「……本当に?」
P.257 「あんたならマチと自分の足、どっちを選ぶ?」
「マチを選ぶだろうね、迷わず」
玻璃綾乃は一瞬の躊躇いもなく言い切る。
その姿勢は、わたしの決意を促すのに十分な切れ味を誇っていた。
わたしもあんたと同じ種類の人間だと、そこで理解する。
P.264 裏袋の横に老婆が付き添い、道を行く。
P.264 そして老婆の手にあった郵便物の包みと外見には、見覚えがあって。
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