3月9日の日記

2012年3月9日 読書
入間人間『ぼっちーズ』アスキーメディアワークス

ぼくと吉田さんに感涙しそうになった.(317頁)
読んでて長い時間にわたる物語だとは
感じつつ読んでたけど……はぅ~.
長いけど,一気に読み通すことをお薦め.

◇メモ
P.13 二等辺三角形型のこんにゃくを丸呑みしようとして窒息しかけた
P.29 『す、しゅす、好き! っていうか! みたいな! えへえへ』
P.44 何回、怪我人の肋骨折る気だこのバカ、と毛深い講師に呆れられた。
    …心臓マッサージは肋骨を折ってやるくらいのつもりでやれと聞いたような.
P.128 そもそも俺の属する経営学科には、飲み会に全裸で参加した男が
    いたという伝説もあるぐらいだ。
P.143 雑草などという名前の草はない、と言うやつもいるがその個人にとって
    重要ではない草など、『雑草』でしかないのが事実だ。俺が大学の中で、
    他の学生にとっては単なるモブでしかないように。
    …それなら,『(単なる)草』でいいわけで『雑モブ』とは言わんだろ.(笑)
P.175 俺達は、常にメッセージを発信している。下らない行動、奇をてらうような発言、
    自分だけの特別でしかない仕草。その中に紳士に、どうしても伝わって欲しい
    メッセージを込めている。それに気づいてくれなんて言われたって、
    他人は『無茶言うな』としか返せない。分かる、それは痛いほど分かる、
    けど。俺達は、こういう伝え方しか選べない。
     そんなやりとりの中でもし親しい間柄の人間が生まれたのなら。
     それこそ、奇跡のようなものなんだろう。
P.188 「潰れたらどうしよう」
    「また新しいバイト先でも探すしかないですね」
    それはまぁそうなんだけど、と先輩店員が口ごもる。なにか含みがあるのか、
    また屋台の中を見渡す。材料を管理する冷蔵庫が大半を占める、小さな内装。
    私も釣られて見渡すと、隅にいつも通り、目に留まるものが置いてある。
    バイトの初日、こじ開けようと頑張って諦めた憎いやつである。
     屋台の端に金庫が置いてあるのだ。頭には埃を被っていて、表に
    ダイヤルはない。鍵穴式だ。鍵穴さえなければ金庫だって簡単に開くのに、
    惜しい。……こういう考え方はどうなのかな。
     ないものねだりと、あるもの消しねだりが混ざって願望を成している。
    「あの金庫って、なにが入っているんですか?売上金をそこで
    管理するわけでもないし」
    「さぁ。開くのを見たことないし、大したものは入ってないんじゃないかな」
P.219 土以外、管理の行き届いた霊園には珍しい異物を、靴の裏に挟む音がした。
    かちりと、金属を踏むような音だった。
P.273 食べ終わってしまって、水に口をつけてジッと時間が過ぎるのを待つ。
    先に行くよ。
    この一言が、この空気の中で許されればどれだけ楽なことか。
    …う~ん.
P.286 「でも秘密の場所っていいと思う。他人の干渉が少なそうだ」
    講師がラーメンのどんぶりを覗きこみながら,薄く唇を曲げる。
    「居場所は他人に汚染されるべきじゃないよ」
    「……汚染?」
    「綺麗な水にしか住めない魚に、必ずしも希少価値があって、
     魚自身も麗しいわけじゃないということ」
P.305 「墓場でいーちゃーつくーなー! きぃさーまーらー!」
P.307 地面のぬかるんだ土に靴がめり込む際、その感触が妙だった。めりこむとき、
    なにか石とは異なる硬さのものを踏みつけたのだ。金属だろうか、
    でも空き缶といった大きさではなかった。
     なんとなくの好奇心にしたがって屈み、足跡のついた地面を指で掘ってみる。
    なるほど、吉田さんが言っていたとおりに掘りやすい。ぼくが踏みしめた
    金属片が、すぐに掘り出された。
P.309 屋台の奥でなにかが動いた気がする。もぞもぞと、人影が動くようでもあった。
    ……もう誰か来て準備でもしているのかな?布を取り払って中を覗いてみようと
    すると、そこに丁度、吉田さんがやって来る。図ったように、という表現が
    適切な瞬間だった。
P.317 「これ、ぼくのあなたに対する気持ちでもあるんですけど!」
    足もとを指差して言ってから、地球が割れた。ぼくの中で世界が横転して、
    体内は熱気沸騰の天変地異。吹き荒れる磁気嵐がぼくの脳をこね回し、
    臨界に達する葛藤と、数秒後への渇望が世界を虚ろに染め上げる。
    つまりめっちゃ混乱して、熱に浮かれて、返事待ちってことだ!
     吉田さんが硬直する。ぼくの顔と指と、鶴ジグソーの告白を眺め倒す。
    下唇が震える。
     やっぱなし、と宣言する時間は失われて、結果を待つしかない。
    「い、」いいです嫌ですいちびっとんのかワレ、「いいんじゃない、でしょうか」
    めでたくも予想がすべて外れたことでふぅ一息「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」成就した!
    思わず広げた両手で吉田さんに抱きつきそうになったけれど自制して、
    舌を懸命に回す。
    「え、うぇぃ、い、いいの、ですか?」
    「音石さんは、わたしを独りぼっちから引っ張り出してくれる……ような」
P.331 「んー……前にも話した気がするけど、綺麗な水にしか住めない魚もいるんだよ」
    「秘密基地がその綺麗な水源地なんですか?」
    森川講師は儚げに笑う。収穫を見誤って腐る寸前の豆のようであった。
    「僕や後ろの連中は他人の干渉を汚染としか受け取れない、脆弱な魚なんだ。
     本当は社会の流れの中で淘汰されても、受け入れるしかないほどに弱い。
     事実ね、もし秘密基地がなかったら大学を真っ当に卒業できていたとは
     思えない。ここにこうして集うこともなく、誰もいなかった」
     ろくでもない集団だけどね、と森川講師が目を瞑る。だけど、その顔は
     満足げでもある。
     「汚染に抵抗力をつけて、外で生きる方法を選ばなかった連中だからみんな、
      大学の側から離れられないで生きている。ここにしか仲間が集わない、
      独りぼっちが『独りぼっちたち』になることができない。そういう危機感を
      育てたという点で、秘密基地には弊害もあった」

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