8月1日の日記

2012年8月1日 読書
米澤穂信『愚者のエンドロール』角川文庫

読んでいて微妙に考え込まされる部分があり
『氷菓』に較べると読むのに時間がかかる感じ.
一方で,奉太郎の語りは,より滑らかに感じる.
ミステリというより,青春ものとして読んでるので
入須冬実のミステリもの頻出風味キャラがなんとも.
青春ものにでてきたら,楽しすぎるおもちゃになる.
彼女と折木供恵のチャット……この悪ども~!(笑)

◇追記◇(2012年11月7日)
最初に出たスニーカー文庫版のイラストに興味があって
検索してみたら記事を発見.この絵で初読したら印象が少し違ったかも.

ライトノベル研究会
ラノベ史探訪(14)-『氷菓』とスニーカー・ミステリ倶楽部と
http://societyforlightnovel.wordpress.com/2012/03/03/%E3%83%A9%E3%83%8E%E3%83%99%E5%8F%B2%E6%8E%A2%E8%A8%AA%EF%BC%8814%EF%BC%89%EF%BC%8D%E3%80%8E%E6%B0%B7%E8%8F%93%E3%80%8F%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9/

◇メモ
P.22 ぱこん、と気の抜けた音を立てて、千反田が弁当箱の蓋を開ける。
   同窓の女子の中にはおやつにもならないような小さな弁当箱を
   使う者が結構いるが、千反田の弁当箱は小ぶりではあっても
   まあまあ食事というに足る量があった。蕗の煮物に、厚焼き玉子、
   そぼろ。

P.56 「その点も大丈夫。あの子は神経を使いすぎるぐらい使って
   あの脚本を書いていたわ。『ミステリーの勉強』をしてね。
   十戒も九命題も二十則も、守ったはずよ」
   十戒:ロナルド・ノックス,九命題:レイモンド・チャンドラー,
   二十則:ヴァン・ダイン *野生時代Vol. 56 2008年7月号 39頁

P.61 「君の話は三人から聞いていた。一人は千反田。一人は学外の人間。
   そしてもう一人は遠垣内将司よ。知っているでしょう」
P.61 「大丈夫、遠垣内は君を悪く思ってはいない」
P.65 やっぱり千反田相手だと具合がよくない。こうなってしまってはもう、
   断固断ってもこいつは逃がしてくれない。逃げようと思えば、事に
   取り組むよりずっと多大なエネルギーを費やさねばならないのだ。
   それは浪費で、俺は浪費は嫌い。
P.105 百円均一で仕入れたペーパーバックを斜め読みする。
P.105 そして里志はといえば、俺と同じく文庫本を手に取っている。
     …文庫本をペーパーバックと呼ぶのは時期的な流行あったか?
P.107 「黄色い背表紙の文庫を幾つか読んだことがある。その程度だな」
    真面目に答える気がなかったので適当な言い方をしたが、
    「ははぁ……。とすると、日本人作家だね。割と固いところだ」
    即座に返ってきた。どうやらこれで通じたらしい。
    …創元推理文庫.

P.110 「ふくちゃんはシャーロッキアンに憧れてるのよね!」
    ……ああ。それは納得だ。
    シャーロッキアンとは要するに、ホームズの熱心な、とても熱心な
    ファンのこと。詳しいことは知らないが、ホームズの相方が
    飼っていたブルドッグの末路を真剣に研究したりすると聞いている。
    稚気と遊び心がなければやっていけない趣味だろうが、まあ里志には
    その両方があるだろう。
    「なんですか、シャーロッキアンって」
    「うん、あのね」
    知らないらしい千反田に伊原が説明する傍ら、里志は小声で訂正した。
    「憧れるのはシャーロッキアンじゃなくってホームジストなんだけど……」
    さてはて、どう違うのやら。

P.116 映画の舞台になった劇場の詳細な見取図だ。各部屋の正式な名前や
    窓の位置、途中でかすれていて「中村青」までしか読めないが
    設計士の名前まで載っている。
    …中村青司?ん,あ!館シリーズの十年以上後の作品だったか,これ.
P.118 ……ホームズを読むのは素人だってか。随分大胆なご意見だな。
    ましてこの場には、シャーロッキアン(だったかホームジストだったか)に
    憧れる里志もいるってのに。
  … sherlockian aシャーロックホームズの[的な]
            nシャーロックホームズの熱烈的ファン,シャーロッキアン
http://www.sherlockian.net/
    Holmesist ? googleで出るには出るが,ヒット数が二桁少ない.
    Holmesian シャーロックホームズを想わせるような.
http://holmesian.net/index.htm

P.182 とあるスポーツクラブで、補欠がいた。補欠はレギュラーになろうと
    努力した。きわめて激しい努力だ。なぜそれに耐えられたのか。
    彼女はまずそのスポーツを愛していたし、またささやかでも
    名を成したいという野望もあったからよ。
     しかし、数年を経ても、その補欠がレギュラーになることはなかった。
    そのクラブには有能な人材が、その補欠よりもずっと有能な人材が
    揃っていたから。単純にね。
     その中でも極めて有能な、天性の才のある人間がいた。彼女は
    他のメンバーとは全く一線を画する存在だった。無論補欠の技量とは
    天と地の開きがあった。彼女はある大会で、非常に優れた活躍をした。
    大会全体を通じてのMVPにも選ばれた。そこでインタビュアーが彼女に
    訊いた。大活躍でしたね、秘訣は何ですか、と。彼女は答えて言った。
     ただ運がよかっただけです。
     この答えは補欠にはあまりに辛辣に響いたと思うけど、どう?

P.183 「誰でも自分を自覚するべきだ。でないと。……見ている側が馬鹿馬鹿しい」

P.189 「神山高校で、お前が第一人者だと自認できる事柄はあるか」
    即答が返ってきた。
    「ないね」
    あまりに早く、そして明確すぎる言葉に俺は絶句する。
    里志は気軽に続けた。
    「言わなかったっけ、僕は福部里志に才能がないことを知っているって。
    たとえば僕はホームジストに憧れる。でも、僕はそれにはなれないんだ。
    僕には、深遠なる知識の迷宮にとことん分け入っていこうという気概が
    決定的に欠けている。もし摩耶花がホームズに興味を傾ければ、
    保証してもいい、三ヶ月で僕は抜かれるね。いろんなジャンルの
    玄関先をちょっと覗いて、パンフレットにスタンプを押してまわる。
    それが僕にできるせいぜいのことさ。第一人者にはなれないよ」

P.191 「里志」
    「ああ」
    「お前がどう思っているかは知らんが、俺はお前をもう少し高く買う。
    なろうと思えばお前はいつか、日本で指折りのホームジストになれると思う」

P.197 「無念だホータロー。ままならぬは世間のしがらみだよ。かくなる上は
    この手帳を、我が前をいつくがごといつきまつれ。……じゃあ!」
    …『吾が前を拝くがごとく、斎き奉れ』古事記,かぁ.*

P.234 「俺は推理小説が得意というわけじゃない。でも、こんな台詞は有名です。
    『君は探偵じゃなく、推理作家になるべきだな』。奇想天外な推理を
    開陳された時の、犯人の台詞」
P.234 「俺は探偵じゃなかった。推理作家だったんじゃないですか」
P.243 里志が自分にはホームジストになる能力がないと言ったとき、
    俺はそんなことはないと言った。どちらが正しいだろう。どちらにしても、
    大した意味はない。なればなるし、ならなければならない、それだけのことだ。
P.243 入須は俺を踊らせるためだけに俺の才能を持ち上げた。それは
    有効だった。俺は入須を満足させる創作をした。
P.243 「誰でも自分を自覚すべきだといったあの言葉も、嘘ですか!」
P.244 「心からの言葉ではない。それを嘘と呼ぶのは、君の自由よ」

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