森田季節『魔女の絶対道徳』ファミ通文庫
とても楽しく物語を楽しんだ.怪奇ストーリーを
うたっているし,実際に使っているのだけれど
愛宕輪月と千賀矢知理が言葉でやりあうのが
とても面白い.咒師(のろんじ)の主人公も
地味ながら中々に言葉を弄してる.
輪月の下ネタに翳みがちだけど,三人とも
結構高度な切り込みや切り返しをしているような.
途中で,無茶苦茶に暗黒展開に行くかとなるが
牡丹が動き出してから,すっと軽味がでてきて
読後感に嫌な味を残さないのが好い.
◇メモ
P.20 「天弓なら手ぶらでも使えるし、それに破邪の武器としては、
刀より弓矢のほうがいいと昔から相場が決まってるんだ」
「そういえば、現三位頼政の鵺退治も弓矢でしたね。化物退治に
強いとされたのは、ある一点を貫き、突き刺さるという点が、
異界から来ると思われていた雷光を髣髴とさせるからでしょうか」
P.20 「そういえば鬼退治で有名な頼光も、音が雷光に通じるから
説話で使われたという説もあるそうですね。というか、頼斗君の
その名前も雷を背後に持っているのでしょうか」
P.39 輪月の目の奥は、虚空につながっているように深く、深く、終りがない。
吸いこまれるような恐怖を感じた。
このままその瞳の中に閉じこめられて出られなくなるのではないかと思った。
だが、目をそらすこともつぶることもしなかった。
もしも、そうやって逃げてしまえば――おそらく俺は殺される。
P.54 その時は、俺も余裕だった。咒師のための特訓も真面目にこなした。
まさに中二の時に中二病的な力を授かったのだから、
意外とオレはリア充だったのかもしれない。
――三年後、死を覚悟する破目になるなんて、思ってもみなかった。
おかげで覚悟なんて大ウソだったことがはっきりした。
もし、中学生が命を懸ける覚悟があるなんて言っても、俺は絶対信じない。
P.57 「でもドクロを使う呪法は日本の密教でもやってたはずですが。
とくに真言立川流はドクロがあってなんぼってぐらいでしょう」
P.68 「はいはい。わかりました。敵対しないようには気をつけますよ。
だって、そうしないと――」
冷たいどころか、温度を感じさせない、虚無のような視線が刺さる。
「――頼斗君が私に殺されちゃいますからね」
その視線だけで魂を持っていかれそうだった。
お気楽なのに、突然ぞっとするような目ができる。
輪月は、俺たちと生きている場所が少しだけ違う。
その少しの違いがあまりに遠い。
けれど、こんな時の対処法は心得ている。さっきも試されたばかりだ。
目を見て話す。なんのことはない。コミュニケーションの基本だ。
P.92 「というわけで、買い出しおよび食事に行きます。一日四本の
貴重なバスの二本目に頑張って乗ります。なお、二本目は
最寄バス停を九時四七分発。だいたい徒歩で二十分かかります。
現在九時三十一分」
P.96 「この時間の便に、始発の展望公園から乗ってきたんだけどね。
着物姿で見た目は輪月ちゃんより何歳か下って印象だったな。
あのへんに旅館はないし、何だろうって思った」
P.112 「あばよ」なんて言う奴はじめて会ったわ。
P.113 「冗談はやめて下さいよ。私が高校なんて愚民養成機関に
入るわけないじゃないですか。私は教わるより教える方が
好きなんです性的な意味でも」
P.125 何もないはずの虚空を輪月は見つめる。
猫が時折、何もないところを見ていることがあるが、
それに近いかもしれない。
P.136 ちなみに夕飯はレトルトのカレーだった。輪月はマジで自炊能力がないらしい。
P.147 「言葉としては新しくても、ちゃんといたよ。そしたら三例ぐらいあげようか?
まずその①、『今昔物語』の二十七巻に、東人の奥さんが川原の院という
ところで何者かに拉致されて、死体で発見された話があるの。本文に
「鬼ノ吸殺テケル」ってあるし、どうやら中身だけ抜き取られたみたいに
なってたみたいだね。でも、皮だけってことはないだろうから、吸血だろうね。
その②、『宇治拾遺物語』の百十三話で、鬼に化けた人間が、美しさを
吸引するぞって女の人を脅してるところがある。何かを吸い取る鬼って
いうのは想像可能なものだったらしいね。
その③、吸血というか飲血だけど、酒呑童子を描いた絵巻にも生き血を
注がれて呑んでいるシーンがあるよね」
P.157 「まず、可能性の低いほうから言うね。『犯人は修羅』説」
P.205 「常世にある知理たちの国。本当の名前もよくわからないから
羅刹国って言ってるけど」
やけに残酷な意味を持ったもののように、その国の名前が聞こえた。
「ああ、恐ろしい鬼の国って言われてるアレですか。説話の中に
ちょくちょく出てくるから知ってはいますが……。『今昔物語』にも
『宇治拾遺物語』にもありましたね……」
P.263 「下界にはバスで移動されましたか……?」
「うん、気づいたら牡丹柄の着物姿で、若干のお金を持っていた。
向こうからこちらの世界に来る時に、生活しやすいよう、そういう設定で
やってくるのか、あるいは死体にでもボクが入り込んでしまったのか、
実はよくわかっていない」
とても楽しく物語を楽しんだ.怪奇ストーリーを
うたっているし,実際に使っているのだけれど
愛宕輪月と千賀矢知理が言葉でやりあうのが
とても面白い.咒師(のろんじ)の主人公も
地味ながら中々に言葉を弄してる.
輪月の下ネタに翳みがちだけど,三人とも
結構高度な切り込みや切り返しをしているような.
途中で,無茶苦茶に暗黒展開に行くかとなるが
牡丹が動き出してから,すっと軽味がでてきて
読後感に嫌な味を残さないのが好い.
◇メモ
P.20 「天弓なら手ぶらでも使えるし、それに破邪の武器としては、
刀より弓矢のほうがいいと昔から相場が決まってるんだ」
「そういえば、現三位頼政の鵺退治も弓矢でしたね。化物退治に
強いとされたのは、ある一点を貫き、突き刺さるという点が、
異界から来ると思われていた雷光を髣髴とさせるからでしょうか」
P.20 「そういえば鬼退治で有名な頼光も、音が雷光に通じるから
説話で使われたという説もあるそうですね。というか、頼斗君の
その名前も雷を背後に持っているのでしょうか」
P.39 輪月の目の奥は、虚空につながっているように深く、深く、終りがない。
吸いこまれるような恐怖を感じた。
このままその瞳の中に閉じこめられて出られなくなるのではないかと思った。
だが、目をそらすこともつぶることもしなかった。
もしも、そうやって逃げてしまえば――おそらく俺は殺される。
P.54 その時は、俺も余裕だった。咒師のための特訓も真面目にこなした。
まさに中二の時に中二病的な力を授かったのだから、
意外とオレはリア充だったのかもしれない。
――三年後、死を覚悟する破目になるなんて、思ってもみなかった。
おかげで覚悟なんて大ウソだったことがはっきりした。
もし、中学生が命を懸ける覚悟があるなんて言っても、俺は絶対信じない。
P.57 「でもドクロを使う呪法は日本の密教でもやってたはずですが。
とくに真言立川流はドクロがあってなんぼってぐらいでしょう」
P.68 「はいはい。わかりました。敵対しないようには気をつけますよ。
だって、そうしないと――」
冷たいどころか、温度を感じさせない、虚無のような視線が刺さる。
「――頼斗君が私に殺されちゃいますからね」
その視線だけで魂を持っていかれそうだった。
お気楽なのに、突然ぞっとするような目ができる。
輪月は、俺たちと生きている場所が少しだけ違う。
その少しの違いがあまりに遠い。
けれど、こんな時の対処法は心得ている。さっきも試されたばかりだ。
目を見て話す。なんのことはない。コミュニケーションの基本だ。
P.92 「というわけで、買い出しおよび食事に行きます。一日四本の
貴重なバスの二本目に頑張って乗ります。なお、二本目は
最寄バス停を九時四七分発。だいたい徒歩で二十分かかります。
現在九時三十一分」
P.96 「この時間の便に、始発の展望公園から乗ってきたんだけどね。
着物姿で見た目は輪月ちゃんより何歳か下って印象だったな。
あのへんに旅館はないし、何だろうって思った」
P.112 「あばよ」なんて言う奴はじめて会ったわ。
P.113 「冗談はやめて下さいよ。私が高校なんて愚民養成機関に
入るわけないじゃないですか。私は教わるより教える方が
好きなんです性的な意味でも」
P.125 何もないはずの虚空を輪月は見つめる。
猫が時折、何もないところを見ていることがあるが、
それに近いかもしれない。
P.136 ちなみに夕飯はレトルトのカレーだった。輪月はマジで自炊能力がないらしい。
P.147 「言葉としては新しくても、ちゃんといたよ。そしたら三例ぐらいあげようか?
まずその①、『今昔物語』の二十七巻に、東人の奥さんが川原の院という
ところで何者かに拉致されて、死体で発見された話があるの。本文に
「鬼ノ吸殺テケル」ってあるし、どうやら中身だけ抜き取られたみたいに
なってたみたいだね。でも、皮だけってことはないだろうから、吸血だろうね。
その②、『宇治拾遺物語』の百十三話で、鬼に化けた人間が、美しさを
吸引するぞって女の人を脅してるところがある。何かを吸い取る鬼って
いうのは想像可能なものだったらしいね。
その③、吸血というか飲血だけど、酒呑童子を描いた絵巻にも生き血を
注がれて呑んでいるシーンがあるよね」
P.157 「まず、可能性の低いほうから言うね。『犯人は修羅』説」
P.205 「常世にある知理たちの国。本当の名前もよくわからないから
羅刹国って言ってるけど」
やけに残酷な意味を持ったもののように、その国の名前が聞こえた。
「ああ、恐ろしい鬼の国って言われてるアレですか。説話の中に
ちょくちょく出てくるから知ってはいますが……。『今昔物語』にも
『宇治拾遺物語』にもありましたね……」
P.263 「下界にはバスで移動されましたか……?」
「うん、気づいたら牡丹柄の着物姿で、若干のお金を持っていた。
向こうからこちらの世界に来る時に、生活しやすいよう、そういう設定で
やってくるのか、あるいは死体にでもボクが入り込んでしまったのか、
実はよくわかっていない」
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