森田季節『どうせ私は狐の子』
森田季節流「葛の葉」系……本歌取りではないけど
愛しい怪異系という気分で読み進んでいったら
「狐」というより「孤」すなわち「ひとりぼっち」が
素材の感じになって,しっとりしんみり淋しいと
感じていたら,現実っぽい方向に急転していって
うひゃぁ.そして最後,怪異に回帰して怖さ倍増.
大好きな『ともだち同盟』も甘口だったのかと再認識.
『ウタカイ』の甘々ファンタジーに酔った直後には衝撃.
魂揺さぶられた.名残りも残る…….
昭文社『山と高原地図 46.京都北山』を眺めながら
読むと面白さが少し増すかな.2013以降のものでも
道筋で分かるかと.しかし,深山では全然怖くないけど
北山あたりって人臭さがあるせいか,妙に怖いなあ.
◇メモ
P.21 ちゃんとした理由がないと人は人を殺さないのだろうか。
そんなことはない。理由も何もない殺人事件だってたくさん
起きているはずだ。理由があるように見えるのは、部外者が
理由が見えない事件を怖がって、後付けで設定しているからだ。
P.23 昼の今出川通は嫌いだ。五列縦隊くらいで歩道を占拠する
修学旅行生が邪魔だし、ちょっと場所はずれるが、京大に近い
マックのあたりから人間が突然飛び出してくるのも困る。マックの
前は路駐自転車と人間で、歩道としてろくに機能していない。
百万遍の西南のバス停の前も詰まった血管みたいに人の流れが
さえぎられる。チェーン店の不動産屋さんも一角に集中しすぎている。
とにかく、何もかもが過剰にできていて、げんなりしてしまう。
好きなところと言えば、自転車屋さんの愛想がいい点ぐらいだ。
P.24 聞き覚えのない歪んだ声が奥から聞こえたのだ。
高いような濁ったような、カタカナであらわすと、ギャアアアとか
グギャアアアとかそんな表記になるだろう声だった。
P.46 住宅地の中をうねうね歩いたほうが早いけど、わたしはわざわざ
今出川通に出て西に進み、川端通を南下して、ぐるっとまわりこむという
登校の仕方をする。朝の今出川通はとても気持ちのよい道だからだ。
P.50 でも、わたしは何を血迷ったか、その現場を確認しに行くことにした。もし、
ここで逃げ出せば、このことをわたしは死ぬまで忘れることができなくなる。
ずっと罪のようなものに怯えないといけなくなる。それが怖かったのだ。
P.52 あの悪意はルールなど無視してどこにもでやってくる気がしたからだ。
P.65 それにしても、長い手洗いだった。まるまる一分は弧太郎の手洗いは続いた。
「こんなに潔癖症だったっけ」
P.95 紫乃の部屋から見る庭は、隣の家が陰になるせいか、
植物の生命力みたいなものがまるで感じられない。
P.100 だから、裁縫箱も同じだろう。
P.101 冷凍食品の炒飯をレンジであっためて、その間にあわててシャワーを浴びた。
P.137 「私が女だから、女の姿なのはごく普通で、あとはこれぐらいの年齢が
一番何だってできるからですかね。男の人はみんな女子高生に甘いですし。
中年のおばさんはすぐに同類を敵か味方に分けて考えようとするから、
おばさんでないほうが気楽です。幼時の姿だと夜に出歩く時に変に
見えてしまいます。だから、これぐらいがちょうどいいんですよ」
P.138 そういえば、先日もマックでポテトをかじりながら、写メでツーショットを
撮っている女子高生二人組を見た。ラブラブのカップルみたいで
見てしまったこちらが恥ずかしくなってきた。わたしでなくても、あんな
距離の近い友達関係を作っている女子は小学生にはほとんど
いなかった。あの近づき方も歳をとる時にしぜんと覚えるのだろうか。
P.146 回国という化け物
P.146 「元は四国巡礼中に行き倒れた山伏の怨霊や、高野聖やほかの
遊行者の怨恨がたまってできたものだと言われています。孤独に
死んでいった者も多いですからね。そういうのが化けて出るんですよ。
そのせいでしょうか、あいつらは徒党を組むのを好むんです。そして、
ひとり身の人間を見つけては撮りこんでいくわけです。このごろ、
新たに仲間をどんどん入れてふくれていましてね。このあたりの
狐さんも怖がっていたので、見張りをすることになったんです」
P.162 「まっすぐ行けば人の世界に出ます。その時に決して振り返らないで下さい。
時間の接続が変になっちゃいますから。私が言うのも変な話ですけど」
P.247 わたしはソファからだらりと足を伸ばした。すると、やわらかい感触とともに
グギャアアアと、ものすごい声がした。それは早退した日の正体不明の
あの鳴き声と同じだった。
いったい何事だ。わたしはすぐに足元をのぞいた。
そこに猫のミシマがいた。わたしはミシマを知らないうちに
踏みつけていたのだ。
ミシマはすぐに報復のためにわたしの足に噛みついてきた。悪いのは
そんなところにいたミシマじゃないか。わたしはあわててソファから逃げ出す。
森田季節流「葛の葉」系……本歌取りではないけど
愛しい怪異系という気分で読み進んでいったら
「狐」というより「孤」すなわち「ひとりぼっち」が
素材の感じになって,しっとりしんみり淋しいと
感じていたら,現実っぽい方向に急転していって
うひゃぁ.そして最後,怪異に回帰して怖さ倍増.
大好きな『ともだち同盟』も甘口だったのかと再認識.
『ウタカイ』の甘々ファンタジーに酔った直後には衝撃.
魂揺さぶられた.名残りも残る…….
昭文社『山と高原地図 46.京都北山』を眺めながら
読むと面白さが少し増すかな.2013以降のものでも
道筋で分かるかと.しかし,深山では全然怖くないけど
北山あたりって人臭さがあるせいか,妙に怖いなあ.
◇メモ
P.21 ちゃんとした理由がないと人は人を殺さないのだろうか。
そんなことはない。理由も何もない殺人事件だってたくさん
起きているはずだ。理由があるように見えるのは、部外者が
理由が見えない事件を怖がって、後付けで設定しているからだ。
P.23 昼の今出川通は嫌いだ。五列縦隊くらいで歩道を占拠する
修学旅行生が邪魔だし、ちょっと場所はずれるが、京大に近い
マックのあたりから人間が突然飛び出してくるのも困る。マックの
前は路駐自転車と人間で、歩道としてろくに機能していない。
百万遍の西南のバス停の前も詰まった血管みたいに人の流れが
さえぎられる。チェーン店の不動産屋さんも一角に集中しすぎている。
とにかく、何もかもが過剰にできていて、げんなりしてしまう。
好きなところと言えば、自転車屋さんの愛想がいい点ぐらいだ。
P.24 聞き覚えのない歪んだ声が奥から聞こえたのだ。
高いような濁ったような、カタカナであらわすと、ギャアアアとか
グギャアアアとかそんな表記になるだろう声だった。
P.46 住宅地の中をうねうね歩いたほうが早いけど、わたしはわざわざ
今出川通に出て西に進み、川端通を南下して、ぐるっとまわりこむという
登校の仕方をする。朝の今出川通はとても気持ちのよい道だからだ。
P.50 でも、わたしは何を血迷ったか、その現場を確認しに行くことにした。もし、
ここで逃げ出せば、このことをわたしは死ぬまで忘れることができなくなる。
ずっと罪のようなものに怯えないといけなくなる。それが怖かったのだ。
P.52 あの悪意はルールなど無視してどこにもでやってくる気がしたからだ。
P.65 それにしても、長い手洗いだった。まるまる一分は弧太郎の手洗いは続いた。
「こんなに潔癖症だったっけ」
P.95 紫乃の部屋から見る庭は、隣の家が陰になるせいか、
植物の生命力みたいなものがまるで感じられない。
P.100 だから、裁縫箱も同じだろう。
P.101 冷凍食品の炒飯をレンジであっためて、その間にあわててシャワーを浴びた。
P.137 「私が女だから、女の姿なのはごく普通で、あとはこれぐらいの年齢が
一番何だってできるからですかね。男の人はみんな女子高生に甘いですし。
中年のおばさんはすぐに同類を敵か味方に分けて考えようとするから、
おばさんでないほうが気楽です。幼時の姿だと夜に出歩く時に変に
見えてしまいます。だから、これぐらいがちょうどいいんですよ」
P.138 そういえば、先日もマックでポテトをかじりながら、写メでツーショットを
撮っている女子高生二人組を見た。ラブラブのカップルみたいで
見てしまったこちらが恥ずかしくなってきた。わたしでなくても、あんな
距離の近い友達関係を作っている女子は小学生にはほとんど
いなかった。あの近づき方も歳をとる時にしぜんと覚えるのだろうか。
P.146 回国という化け物
P.146 「元は四国巡礼中に行き倒れた山伏の怨霊や、高野聖やほかの
遊行者の怨恨がたまってできたものだと言われています。孤独に
死んでいった者も多いですからね。そういうのが化けて出るんですよ。
そのせいでしょうか、あいつらは徒党を組むのを好むんです。そして、
ひとり身の人間を見つけては撮りこんでいくわけです。このごろ、
新たに仲間をどんどん入れてふくれていましてね。このあたりの
狐さんも怖がっていたので、見張りをすることになったんです」
P.162 「まっすぐ行けば人の世界に出ます。その時に決して振り返らないで下さい。
時間の接続が変になっちゃいますから。私が言うのも変な話ですけど」
P.247 わたしはソファからだらりと足を伸ばした。すると、やわらかい感触とともに
グギャアアアと、ものすごい声がした。それは早退した日の正体不明の
あの鳴き声と同じだった。
いったい何事だ。わたしはすぐに足元をのぞいた。
そこに猫のミシマがいた。わたしはミシマを知らないうちに
踏みつけていたのだ。
ミシマはすぐに報復のためにわたしの足に噛みついてきた。悪いのは
そんなところにいたミシマじゃないか。わたしはあわててソファから逃げ出す。
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