野村美月『“空蝉" ヒカルが地球にいたころ……(7)』ファミ通文庫
葵の『ぎゅっ』が素敵過ぎる.そして帆夏が切ない~.
しかし,朝衣の変化には未だについていけない.
著者一流の乱暴さは,ま~しょうがないか,とすると
なんか,不思議にしっとりした感じの巻だったような.
空の描写が微妙に違和感伴っていたんだけれど
300頁で……あや,やっぱり,そういうことか.
いや,最初から,そういうキャラに描写されてるのに
ヒカルの子ってのは違和感をもたらしてる気がする.
(ぼそっ)『親があっても子は育つ』(c)坂口安吾は至言.
是光の執着の仕方は違和感あり過ぎ,だったりする.
◇メモ
P.26 「最後に月のものが始まった日まで遡って、
そこから一ヶ月と数えるんだよ」
「そんな知識、高一男子にあるか!
つか放課後、また教会へ行ってみようぜ」
P.38 「空は……帚木みたいな女性なんだ」
P.38 「『新古今和歌集』で坂上是則が『園原や伏屋に生ふる帚木の
ありとは見えて逢はぬ君かな』という歌を詠んでいてね……
箒を立てたように、すっきりした姿をした帚木は、遠くからだと
見えるけど、近づくと見えなくなってしまう……。そうした伝説から、
この歌も生まれたんだよ。近づいても逢えない人……。
遠くからは見えていても、そばにゆくと消えてしまう人……。
そんな帚木に似て、あなたも私に逢ってくれないのですね……
と、切なく呼びかけているんだ」
P.72 「あたし、あんたのヘリオトロープとして協力する」
P.90 「はじめて会ったとき『空は帚木みたいだ』って言ったのが、
よくなかったのかな。再会したときに『帚木を見たけど、ふさふさした
大きなマリモみたいで、全然綺麗な花じゃなかったわ』って言ってた。
ぼくが『それはきっと箒木だよ。箒木を帚木ともいうけれど、伝説の
帚木は今は残っていないから、どんな木だったのかは、はっきりとは
わからないんだ。箒木も、しなやかな細い茎が、丸い茂みを形づくる
様子がキュートな箒みたいで素敵な花だけどね』って教えてあげたら、
『花びらもついていないなんて花じゃないみたい』って――
P.90 「だから空にも『そんなことないよ。箒木はとっても綺麗だし、紅葉したら
もっと素敵で、珊瑚の群れみたいだよ――伝説の帚木もこんなんだったんじゃ
ないかと思えるくらい。今度一緒に見に行こう』って言ったのに。空は
『約束はできないわ』――って、淋しそうに横を向いちゃって――
ああ、やっぱりわかんないよっ。是光はわかる?」
P.133 「……ヒカルくんと、選んだカップだったのに」
P.133 オランダだかスイスだかの民族衣装っぽい、ふんわりふくらんだスカートに
赤い縁取りのある華やかなエプロンをつけた女性が、腕に赤ん坊を抱いている.
P.134 何故なら、ちょうど赤ん坊の首の下あたりから、葉書が横にすっぱりと
切り取られていたから。
P.134 『おねえちゃん、あいたい、荻』
P.135 「ぼくは、空とカップを選んだことなんてないんだ」
P.141 「しばらく帰らないわ。ヒカルくんと旅行した場所へ、急に行きたく
なってしまったの。けど、早く来すぎたみたい。せめて秋まではいなくちゃ」
P.141 「きらきら星」
P.142 「だって、旅行なんて一度もしなかったもの」
P.148 「母親のわりに、えらくひらひらした格好してたな。こう、スカートとかエプロンに、
赤い刺繍の縁取りとかしてあって。あんなエプロンで、家事できんのかっつー」
P.149 「チロルテープを、めいっぱい使ってたね」
「チロル――?」
「あの赤い縁取りだよ。チロル地方の民俗風の刺繍をした飾りテープで、
花柄とか果物の柄とか、手芸店に行けばたくさんあるよ。あの衣装……
なんとなく引っかかっているんだけど……。前に、どこかで見たことが
あるような気がして……」
P.166 「赤城くんは……ほのちゃんとわたし、どっちが好き?」
「は?」
是光は口を、ぽかんと開けた。
なんだそりゃ?
ヒカルも意表を突かれたように目を見張り、「えっと、そういう
告白って……有り?」と、なにやらぶつぶつ言っている。
「ねぇ、どっち、かな」
みちるがうるんだ瞳で、見上げる。
P.167 「そんなの答えられねーよ。較べるもんでもねーし。式部は式部、
おまえはおまえだろ、花里」
そう言うと、みちるはがっかりした顔になり、それからもっと
思いつめた瞳で、是光をじっと見つめた。
「じゃあ……ほのちゃんのこと、好き?」
わずかに吹いていた風が、完全に止んだ。
二人きりの屋上は静まり返り、みちると是光の息づかいだけが聞こえる。
ヒカルの姿も、見あたらない。
きっと是光の後ろで、様子を見ているのだろうが。
「ああ、好きだ」
低い声が、是光の唇から流れていった。
みちるが一瞬目を大きく見開き、わずかな沈黙のあと、眉を下げる。
「ありがとう、答えてくれて」
P.168 「好きかって訊かれたから、好きだって答えただけだ。式部のこと、
いいやつだと思ってるし」
「いいやつって……それ、LIKEの好きってこと?」
「……ああ」
P.169 「いや、式部は誘わねー」
「なんで?」
「わかんねーけど……」
好きかと訊かれれば、好きとしか答えようがない。
凶暴なヤンキーと恐れられていた自分に、ここまで密に
関わってきてくれた女は、帆夏くらいだ。
いつもいつも、帆夏に助けられている。
泣かれたときは、ドキリとした。
夜のプールで身を寄せてきたときは、胸が甘く疼いた。
それを全部ひっくるめて、式部帆夏を好きかと問われれば、
やっぱり自分は好きと答えるだろうが、その『好き』が、
どういう好きなのかは、明確ではなくて。
けど、帆夏から是光への『好き』が、好意以上のものだと
いうことくらいは、理解できていた。
なので、安易にデートだと誤解されるような誘いかたをしては、
いけないような気がしたのだ。
「デートなら、きちんとデートとして誘わねーと、ダメだろ」
P.176 (赤城は葵の上に、なにを頼んだの?あたしが、困ったことがあったら
相談してって言ったときは、『ねぇよ』って、素っ気なかったのに)
葵の上には相談するんだ。頼む、なんて言っちゃうんだ。
「赤城のバカ。あたしのこと、ヘリオトロープだって言ったのに」
P.177 「それより是光は、式部さんは誘えなくても、葵さんは誘えるんだね」
「?どういう意味だ」
P.177 「気づいてないならいいんだ。気づかずにいたほうが、きっと
是光のためにも、葵さんのためにもいいから」
P.214 「世の中には、わざわざ遠くまでいって、公衆トイレで子供を
産み捨てるような母親もいますから」
P.215 「その赤ん坊、生命力が強かったんでしょうねー。わんわん泣いたせいで、
人が集まってきて、母親もすぐ見つかっちゃったんですけど、子供なんか
いらないって言われて、孤児院に引き取られたんですよー。
小さい町だったから、あれがトイレで産み捨てられた子だって有名人で、
あだ名はずっと公衆便所でした。あのままあそこにいたら、本当に
公衆便所になってたかも……」
P.215 「けど、お兄さんが、会いにきてくれたんです。とっても立派な人。自分に
そんな家族がいたなんて、夢見たいで。この人のためなら、なんでも
できるって思いました。家族だって名乗りあえなくてもいいから、
近くにいたいって」
P.239 「帚木を見たけど、ふさふさした大きなマリモみたいで、全然
綺麗な花じゃなかったわ」
と少しだけ恨みがましくつぶやいたら
「それは、帚木じゃなくて、きっと箒木だよ」
と答えた。
「箒木も、しなやかな細い茎が、ふさふさした丸い茂みを形づくる様子が
箒みたいで、素敵な花だけど」
「そうかしら、花びらもついていないなんて、花じゃないみたい」
すると、ヒカルは夢中で身を乗り出してきて、
「そんなことないよ。箒木はとっても綺麗だし、紅葉したらもっと素敵で、
珊瑚の群れみたいだよ――伝説の帚木もこんなだったんじゃないかって
思えるくらい。今度一緒に見に行こう!」
と、子供みたいに、きらきらした無邪気な顔で言っていた。
P.300 そう、あの夜、ヒカルと空の間には、子供を授かるような
行為はなにもなかったのだから。
葵の『ぎゅっ』が素敵過ぎる.そして帆夏が切ない~.
しかし,朝衣の変化には未だについていけない.
著者一流の乱暴さは,ま~しょうがないか,とすると
なんか,不思議にしっとりした感じの巻だったような.
空の描写が微妙に違和感伴っていたんだけれど
300頁で……あや,やっぱり,そういうことか.
いや,最初から,そういうキャラに描写されてるのに
ヒカルの子ってのは違和感をもたらしてる気がする.
(ぼそっ)『親があっても子は育つ』(c)坂口安吾は至言.
是光の執着の仕方は違和感あり過ぎ,だったりする.
◇メモ
P.26 「最後に月のものが始まった日まで遡って、
そこから一ヶ月と数えるんだよ」
「そんな知識、高一男子にあるか!
つか放課後、また教会へ行ってみようぜ」
P.38 「空は……帚木みたいな女性なんだ」
P.38 「『新古今和歌集』で坂上是則が『園原や伏屋に生ふる帚木の
ありとは見えて逢はぬ君かな』という歌を詠んでいてね……
箒を立てたように、すっきりした姿をした帚木は、遠くからだと
見えるけど、近づくと見えなくなってしまう……。そうした伝説から、
この歌も生まれたんだよ。近づいても逢えない人……。
遠くからは見えていても、そばにゆくと消えてしまう人……。
そんな帚木に似て、あなたも私に逢ってくれないのですね……
と、切なく呼びかけているんだ」
P.72 「あたし、あんたのヘリオトロープとして協力する」
P.90 「はじめて会ったとき『空は帚木みたいだ』って言ったのが、
よくなかったのかな。再会したときに『帚木を見たけど、ふさふさした
大きなマリモみたいで、全然綺麗な花じゃなかったわ』って言ってた。
ぼくが『それはきっと箒木だよ。箒木を帚木ともいうけれど、伝説の
帚木は今は残っていないから、どんな木だったのかは、はっきりとは
わからないんだ。箒木も、しなやかな細い茎が、丸い茂みを形づくる
様子がキュートな箒みたいで素敵な花だけどね』って教えてあげたら、
『花びらもついていないなんて花じゃないみたい』って――
P.90 「だから空にも『そんなことないよ。箒木はとっても綺麗だし、紅葉したら
もっと素敵で、珊瑚の群れみたいだよ――伝説の帚木もこんなんだったんじゃ
ないかと思えるくらい。今度一緒に見に行こう』って言ったのに。空は
『約束はできないわ』――って、淋しそうに横を向いちゃって――
ああ、やっぱりわかんないよっ。是光はわかる?」
P.133 「……ヒカルくんと、選んだカップだったのに」
P.133 オランダだかスイスだかの民族衣装っぽい、ふんわりふくらんだスカートに
赤い縁取りのある華やかなエプロンをつけた女性が、腕に赤ん坊を抱いている.
P.134 何故なら、ちょうど赤ん坊の首の下あたりから、葉書が横にすっぱりと
切り取られていたから。
P.134 『おねえちゃん、あいたい、荻』
P.135 「ぼくは、空とカップを選んだことなんてないんだ」
P.141 「しばらく帰らないわ。ヒカルくんと旅行した場所へ、急に行きたく
なってしまったの。けど、早く来すぎたみたい。せめて秋まではいなくちゃ」
P.141 「きらきら星」
P.142 「だって、旅行なんて一度もしなかったもの」
P.148 「母親のわりに、えらくひらひらした格好してたな。こう、スカートとかエプロンに、
赤い刺繍の縁取りとかしてあって。あんなエプロンで、家事できんのかっつー」
P.149 「チロルテープを、めいっぱい使ってたね」
「チロル――?」
「あの赤い縁取りだよ。チロル地方の民俗風の刺繍をした飾りテープで、
花柄とか果物の柄とか、手芸店に行けばたくさんあるよ。あの衣装……
なんとなく引っかかっているんだけど……。前に、どこかで見たことが
あるような気がして……」
P.166 「赤城くんは……ほのちゃんとわたし、どっちが好き?」
「は?」
是光は口を、ぽかんと開けた。
なんだそりゃ?
ヒカルも意表を突かれたように目を見張り、「えっと、そういう
告白って……有り?」と、なにやらぶつぶつ言っている。
「ねぇ、どっち、かな」
みちるがうるんだ瞳で、見上げる。
P.167 「そんなの答えられねーよ。較べるもんでもねーし。式部は式部、
おまえはおまえだろ、花里」
そう言うと、みちるはがっかりした顔になり、それからもっと
思いつめた瞳で、是光をじっと見つめた。
「じゃあ……ほのちゃんのこと、好き?」
わずかに吹いていた風が、完全に止んだ。
二人きりの屋上は静まり返り、みちると是光の息づかいだけが聞こえる。
ヒカルの姿も、見あたらない。
きっと是光の後ろで、様子を見ているのだろうが。
「ああ、好きだ」
低い声が、是光の唇から流れていった。
みちるが一瞬目を大きく見開き、わずかな沈黙のあと、眉を下げる。
「ありがとう、答えてくれて」
P.168 「好きかって訊かれたから、好きだって答えただけだ。式部のこと、
いいやつだと思ってるし」
「いいやつって……それ、LIKEの好きってこと?」
「……ああ」
P.169 「いや、式部は誘わねー」
「なんで?」
「わかんねーけど……」
好きかと訊かれれば、好きとしか答えようがない。
凶暴なヤンキーと恐れられていた自分に、ここまで密に
関わってきてくれた女は、帆夏くらいだ。
いつもいつも、帆夏に助けられている。
泣かれたときは、ドキリとした。
夜のプールで身を寄せてきたときは、胸が甘く疼いた。
それを全部ひっくるめて、式部帆夏を好きかと問われれば、
やっぱり自分は好きと答えるだろうが、その『好き』が、
どういう好きなのかは、明確ではなくて。
けど、帆夏から是光への『好き』が、好意以上のものだと
いうことくらいは、理解できていた。
なので、安易にデートだと誤解されるような誘いかたをしては、
いけないような気がしたのだ。
「デートなら、きちんとデートとして誘わねーと、ダメだろ」
P.176 (赤城は葵の上に、なにを頼んだの?あたしが、困ったことがあったら
相談してって言ったときは、『ねぇよ』って、素っ気なかったのに)
葵の上には相談するんだ。頼む、なんて言っちゃうんだ。
「赤城のバカ。あたしのこと、ヘリオトロープだって言ったのに」
P.177 「それより是光は、式部さんは誘えなくても、葵さんは誘えるんだね」
「?どういう意味だ」
P.177 「気づいてないならいいんだ。気づかずにいたほうが、きっと
是光のためにも、葵さんのためにもいいから」
P.214 「世の中には、わざわざ遠くまでいって、公衆トイレで子供を
産み捨てるような母親もいますから」
P.215 「その赤ん坊、生命力が強かったんでしょうねー。わんわん泣いたせいで、
人が集まってきて、母親もすぐ見つかっちゃったんですけど、子供なんか
いらないって言われて、孤児院に引き取られたんですよー。
小さい町だったから、あれがトイレで産み捨てられた子だって有名人で、
あだ名はずっと公衆便所でした。あのままあそこにいたら、本当に
公衆便所になってたかも……」
P.215 「けど、お兄さんが、会いにきてくれたんです。とっても立派な人。自分に
そんな家族がいたなんて、夢見たいで。この人のためなら、なんでも
できるって思いました。家族だって名乗りあえなくてもいいから、
近くにいたいって」
P.239 「帚木を見たけど、ふさふさした大きなマリモみたいで、全然
綺麗な花じゃなかったわ」
と少しだけ恨みがましくつぶやいたら
「それは、帚木じゃなくて、きっと箒木だよ」
と答えた。
「箒木も、しなやかな細い茎が、ふさふさした丸い茂みを形づくる様子が
箒みたいで、素敵な花だけど」
「そうかしら、花びらもついていないなんて、花じゃないみたい」
すると、ヒカルは夢中で身を乗り出してきて、
「そんなことないよ。箒木はとっても綺麗だし、紅葉したらもっと素敵で、
珊瑚の群れみたいだよ――伝説の帚木もこんなだったんじゃないかって
思えるくらい。今度一緒に見に行こう!」
と、子供みたいに、きらきらした無邪気な顔で言っていた。
P.300 そう、あの夜、ヒカルと空の間には、子供を授かるような
行為はなにもなかったのだから。
コメント