村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
図書館予約のがようやく廻ってきたので読み始めたけれど
冒頭部の引きの弱さに,なんだかなと思いつつ読み進んで
途中から,なんとか普通に読み進んで読み終えた.
でもって……ライトノベル以上に無茶設定だなと感じたのが
四人が,つくるを切るに至った経緯のあたりで,それまでの
人間関係叙述とこのくだりに整合性を持たせる人間関係が
さっぱり思いつかない.あと,『性夢』として描かれている内容も
わからないなぁ.オカズ妄想とかならまだしも.(爆)
もひとつ不思議なのは205頁でアカが告白している
男色家自覚のきつさというのも想像が及びがたいというか
人生途中中年になって気づくようなものなのだろうか?
これが高校生時代に悩んでいたとかならまだ判る気もするが.
◇メモ
P.62 「フランツ・リストの『ル・マル・デュ・ペイ』です。
『巡礼の年』という曲集の第一年、スイスの巻に入っています」
「『ル・マル・デュ……』?」
「Le Mal du pays フランス語です。一般的にはホームシックとか
メランコリーといった意味で使われますが、もっと詳しく言えば、
『田園風景が人の心に呼び起こす、理由のない哀しみ』。
正確に翻訳するのはむずかしい言葉です」
P.63 「僕は音楽に詳しくないから、上手下手は判断できない。
でも耳にするたび美しい曲だと思った。なんて言えばいいんだろう?
穏やかな哀しみに満ちていて、それでいてセンチメンタルじゃない」
「そう感じるからには、きっと上手な演奏だったんでしょうね」
と灰田は言った。「技巧的にはシンプルに見えるけど、なかなか
表現のむずかしい曲です。楽譜通りにあっさり弾いてしまうと、
面白くも何ともない音楽になります。逆に思い入れが過ぎると
安っぽくなります。ペダルの使い方ひとつで、音楽の性格が
がらりと変わってしまいます」
「これはなんていうピアニスト?」
「ラザール・ベルマン。ロシアのピアニストで、繊細な心象風景を
描くみたいにリストを弾きます。リストのピアノ曲は一般的に技巧的な、
表層的なものだと考えられています。もちろん中にはそういうトリッキーな
作品もあるけど、全体を注意深く聞けば、その内側には独特の深みが
こめられていることがわかります。しかしそれらは多くの場合、装飾の
奥に巧妙に隠されている。とくにこの『巡礼の年』という曲集はそうです。
現存のピアニストでリストを正しく美しく弾ける人はそれほど多くいません。
僕の個人的な意見では、比較的新しいところではこのベルマン、
古いところではクラウディオ・アラウくらいかな」
P.306 「誰の演奏で聴いているの?」
「ラザール・ベルマン」
エリは首を振った。「その人の演奏はまだ聴いたことがない」
「彼の演奏の方がもう少し耽美的かもしれない。この演奏はとても
見事だけど、リストの音楽というよりはどことなく、ベートーヴェンの
ピアノ・ソナタみたいな格調があるな」
エリは微笑んだ。「アルフレート・ブレンデルだからね、あまり
耽美的とは言えないかもしれない。でも私は気に入っている。
昔からずっとこの演奏を聴いているから、耳が慣れてしまったのかも
しれないけど」
図書館予約のがようやく廻ってきたので読み始めたけれど
冒頭部の引きの弱さに,なんだかなと思いつつ読み進んで
途中から,なんとか普通に読み進んで読み終えた.
でもって……ライトノベル以上に無茶設定だなと感じたのが
四人が,つくるを切るに至った経緯のあたりで,それまでの
人間関係叙述とこのくだりに整合性を持たせる人間関係が
さっぱり思いつかない.あと,『性夢』として描かれている内容も
わからないなぁ.オカズ妄想とかならまだしも.(爆)
もひとつ不思議なのは205頁でアカが告白している
男色家自覚のきつさというのも想像が及びがたいというか
人生途中中年になって気づくようなものなのだろうか?
これが高校生時代に悩んでいたとかならまだ判る気もするが.
◇メモ
P.62 「フランツ・リストの『ル・マル・デュ・ペイ』です。
『巡礼の年』という曲集の第一年、スイスの巻に入っています」
「『ル・マル・デュ……』?」
「Le Mal du pays フランス語です。一般的にはホームシックとか
メランコリーといった意味で使われますが、もっと詳しく言えば、
『田園風景が人の心に呼び起こす、理由のない哀しみ』。
正確に翻訳するのはむずかしい言葉です」
P.63 「僕は音楽に詳しくないから、上手下手は判断できない。
でも耳にするたび美しい曲だと思った。なんて言えばいいんだろう?
穏やかな哀しみに満ちていて、それでいてセンチメンタルじゃない」
「そう感じるからには、きっと上手な演奏だったんでしょうね」
と灰田は言った。「技巧的にはシンプルに見えるけど、なかなか
表現のむずかしい曲です。楽譜通りにあっさり弾いてしまうと、
面白くも何ともない音楽になります。逆に思い入れが過ぎると
安っぽくなります。ペダルの使い方ひとつで、音楽の性格が
がらりと変わってしまいます」
「これはなんていうピアニスト?」
「ラザール・ベルマン。ロシアのピアニストで、繊細な心象風景を
描くみたいにリストを弾きます。リストのピアノ曲は一般的に技巧的な、
表層的なものだと考えられています。もちろん中にはそういうトリッキーな
作品もあるけど、全体を注意深く聞けば、その内側には独特の深みが
こめられていることがわかります。しかしそれらは多くの場合、装飾の
奥に巧妙に隠されている。とくにこの『巡礼の年』という曲集はそうです。
現存のピアニストでリストを正しく美しく弾ける人はそれほど多くいません。
僕の個人的な意見では、比較的新しいところではこのベルマン、
古いところではクラウディオ・アラウくらいかな」
P.306 「誰の演奏で聴いているの?」
「ラザール・ベルマン」
エリは首を振った。「その人の演奏はまだ聴いたことがない」
「彼の演奏の方がもう少し耽美的かもしれない。この演奏はとても
見事だけど、リストの音楽というよりはどことなく、ベートーヴェンの
ピアノ・ソナタみたいな格調があるな」
エリは微笑んだ。「アルフレート・ブレンデルだからね、あまり
耽美的とは言えないかもしれない。でも私は気に入っている。
昔からずっとこの演奏を聴いているから、耳が慣れてしまったのかも
しれないけど」
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